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7.面倒な女心、複雑な男心
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しおりを挟む「鶴本くん」
鶴本くんのアイスはすっかり溶けていた。
「急いで帰りたい理由でもあるの?」
「え?」
「ご飯食べに来ただけ、って感じだから」
「――すいません」と、鶴本くんは明らかに言葉に困って謝った。
帰りたい理由を、言いたくないらしい。
「言いたいこと、言ってるんだけど?」
「……言ったら、引かれるから嫌だ」
「言わないなら明日は会わない」
「は? ずるくない? それ」
「……」
黙って、彼をじっと見つめる。
実際は、睨みつけていたと思う。
だから、鶴本くんは簡単に観念した。
「一緒にいたら、触りたくなるから」
「……は?」
「ほら! だから言いたくなかったんだよ!」
さっきまでの、男らしい威勢の良さは、見る影もない。
鶴本くんは唇を尖らせて、ふてくされた子供のよう。
「今日の映画をキャンセルしたのは?」
「……麻衣さんのエプロン姿を想像したら、朝から勃ちっ放しで、外に出られる状態じゃなかったから」
エプロンで勃つって……。
「じゃあ、この二週間、キスもしなかったのは?」
「キスだけで終われる気がしないから! あー!! もうっ! なんなの、これ。最悪だろ……」
童貞の妄想か。
あまりに笑える理由に、気にしていた自分がバカみたいに思えた。
鶴本くんは顔を真っ赤にして、頭を抱えていた。
笑っちゃ可哀想だとわかっていても、堪えられない。
「くそ……。カッコ悪りぃ……」
鶴本くんの行動の全てが、私に繋がっているとわかって、嬉しかった。
悩ませて申し訳ないけれど、悩んでくれること自体が、嬉しい。
私は鶴本くんのすぐ横に移動し、身を屈めて彼の頬にキスをした。
「怒って、ごめんね」
そう言って、もう一度キスをした。
「俺、麻衣さんにちゃんと好きになってもらいたい」
鶴本くんが私の腰を抱き寄せた。
鶴本くんは座っていて、私は立っているから、彼の顔が私のお腹に押し付けられる格好になり、恥ずかしかった。けれど、彼の腕は力強かったし、抵抗できる雰囲気でもなかった。
「セックスの話が先行しちゃって、なんか身体目当てみたいになっちゃった気がして、ダメだって思ったんだよ」
「それは……」
私が身体のことを理由に、鶴本くんの気持ちを拒もうとしたから……。
「だから、ちゃんと俺のことを好きになってもらって、普通に恋人としてセックスできるようになりたくて……」
「だから、キスもしなかったの?」
「だって! ちゃんと、とか、普通に、って思ってるのに、毎晩のように麻衣さんは夢に出て来て俺を誘うし! キスなんかしたら、夢も妄想もごっちゃになりそうで――」
「なのに、お家デートがしたかったの?」
鶴本くんが小さく頷いた。
「二人きりでいたらシたくなるんじゃないの?」
「けど、会えないのはヤダ……」
か、可愛い――!
絶対、言えないけれど。
けれど、顔がニヤけるのを止められない。
嬉しすぎる。
「男心は複雑だね」
私は鶴本くんの頭をそっと撫でた。
「女心は複雑じゃないの?」
「複雑と言うより、面倒臭いかな」
「どんな風に?」
「それがわかったら、私もこんなにイライラしないよ」
溶けたアイスを眺めながら、私は彼の髪に指を絡ませていた。
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