【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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8.彼の嫉妬と元カノとの再会

「えっ!?」

 私は首を捻り、鶴本くんの顔を見ようとした。彼は私の肩に額を押し付け、俯いてしまったから、見えないけれど。

「カッコわる……」

 両手が胸を下ろし、お腹の前でがっちりクロスする。

「鶴本くん……?」

「ごめん……」

 肩に彼の息がかかる。

「このままじゃ、麻衣さんに好きになってもらう前に、一年が終わっちまうと思って……」

 一年、は長いと思った。

 私にとってはともかく、若い彼にとっては、一年も私の顔色と身体の具合を窺いながら付き合うのは、酷なことだと思った。

 一年より前に、愛想を尽かされると思った。

「いい匂い……」と、鶴本くんが呟いた。

「パスタ?」

「え? あ、うん。普通の、ミートソースのだけど……」

「好き」

「缶詰の、普通の、だけど……」

「うん」

 鶴本くんの息がいちいち首筋をくすぐり、その度に熱を感じる。

「パスタ、茹でるから……」

「うん」

 そう言っても鶴本くんの腕は緩まず、私は身動きが取れない。

 無音の部屋で聞こえるのは、正確には、感じるのは、鶴本くんの鼓動だけ。

 彼の髪が肌をくすぐる。

 抱き締められているだけ。

 それだけなのに、キスされて胸を揉まれたさっきよりも緊張する。

「麻衣さん……」

 耳元で名前を囁かれ、首筋に彼の唇を押し当てられた時、恥ずかしいほど甲高い声を発してしまった。

「んっ……」

 自分の声に驚き、慌てて口を塞ごうにも、両手ごと彼にホールドされて出来なかった。

「その声、ヤバい」

 鶴本くんの声の方がよっぽどヤバい。

 鶴本くんと付き合い始めて、わかったことがある。私はどうやら、甘えられるのが嬉しいようだ。

 年下と付き合ったことがない私は、男が女に甘えるのはセックスの時限定だと思っていた。基本的に男は女の前を歩きたがり、食事にしても行き先にしても決定権は男にある。私自身がそんなもんだと思って何も言わなかったせいかもしれないけれど、これまでの恋人はそんな感じだった。

 けれど、鶴本くんは違う。

 まずは私の希望を聞いてくれる。

 私が食べたいものや行きたい場所を言うと、大抵は叶えてくれる。でも、時々『俺は○○の気分なんだけどな』とか言って、私の顔を覗き込む。

 最近では、私がその子供っぽい表情に弱いと気づかれているよう。

 母性本能をくすぐられる、とはこんな感じじゃないだろうか。

 それでいて、今日のように強引に求められたりしたら、拒めるわけがない。

「鶴本くん……?」

 チュッ、チュッ、と音を立てて私の首や肩にキスを繰り返すけれど、手は私を抱き締めたままどこにも行かない。シたがっているのは確かなのに、ちゃんとは触れてこない。

「南事務所は、どう?」

「え!?」

「仕事、順調?」
感想 3

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