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11.波乱の忘年会
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しおりを挟む「……素直じゃないのはどっちよ」
一言言ってやろうと思ったら、また先を越された。今度はあきらに。
あきらも怒っているようだった。
「地球滅亡の瞬間、千尋が一緒に居たいのは誰?」
「え――」
「酔い潰れて名前を呼んじゃうくらい好きなくせに認めようとしないのは、千尋じゃない」
千尋は少し驚いて、戸惑って、それから笑った。
「聞き間違いじゃない?」
あきらを馬鹿にするように、続ける。
「っていうか、自分が素直になれないことに、私を巻き込まないでよ」
「千尋が自分のことを棚に上げて偉そうに――」
あきらもムキになる。
聞いていたくなかったし、止めなければエスカレートすることは目に見えている。
「ストップ! もうやめて!!」
私は声を張り上げた。
「何をムキになって張り合ってんのよ! あきらと千尋は相手も事情も違うんだし、どっちが悪いとか偉いとかないよ」
はあっと息を吐く。
「大事なのは後悔しないことでしょ? 龍也の気持ちは報われて欲しいけど、あきらが無理しても幸せじゃないんだし、千尋もそうだよ。『いい男だな』って気持ちは立派な好意だよ。誰彼構わないみたいな言い方しないで!」
大好きな仲間同士で言い合いなんて、嫌だった。大人なんだし、お酒が入っているんだから、これくらいあるあるなんだろうけど、とにかく嫌だった。
大人気なく、涙が滲む。
「ごめん」
「ごめん」
千尋とあきらが同時に言ってくれて、ホッとした。
「後悔しないこと、か」と、陸が呟く。
「確かにな」
「だな」と、大和。
「じゃあ、地球滅亡の時に麻衣が一緒に居たいのは?」
「え?」
「龍也はあきら、あきらは保留で、千尋は恋人、麻衣は?」
陸に問われ、考えた。
最期に一緒に居たい人……。
駿介?
でも――。
「年下彼氏?」と、陸。
「正直に言っていい?」
「ん」
「私は、みんなといたい」
私は自分の気持ちに正直に言った。
「彼氏は?」
「あ! もちろん彼のことも考えたよ? けど、んー、まだ付き合いも短いし、そこまでは……っていうか、真っ先に浮かんだのはみんなだったっていうか……」
「麻衣って、夢見がちかと思えば、実は誰よりも現実主義だよね」
褒められているような、バカにされているような、複雑な気分。
「鶴本くん、もっと頑張んなきゃ、だな」と、龍也。
「ま、俺もだけど」
龍也に見つめられ、あきらがフイッと私に視線を逃がす。
あきら、可愛い。
「陸は?」と、千尋が聞いた。
「大和とさなえは聞かなくてもわかってるし。陸は?」
「俺は――麻衣」
え――――?
大口を開けてトマトとアボガドのブルスケッタを食べる私に、みんなの視線が集まる。
「ん?」
「俺は、麻衣といる」
「ふへっ!?」
ブルスケッタが口から飛び出そうになり、私は両手で口を押えた。鼻の奥から変な声が出る。
「みーんな相手がいるからな。麻衣が寂しくないように、俺が一緒に居てやるよ」
「はにっ、ふへはら――」
欲張って一口で頬張ったせいで、全く言葉にならない。
「何言ってんのか、わかんねー」
陸が大笑いする。
私は急いでブルスケッタを噛み砕き、サワーで流し込んだ。
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