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14.揺れる心
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しおりを挟む「私は……」
動揺するな、と自分に言い聞かせた。
「陸の彼女じゃないし」
「まだ、な」
「陸!」
こんな駆け引き、息が詰まる。
昔っからそうだ。
陸はこんな風に、本心を見え隠れさせる。
大和と龍也がストレート一択なのに対し、陸は変化球で翻弄する。
それが、すごく大人っぽくて憧れた時もあった。
今も、同い年には思えないほど。
けれど、私はど真ん中にストレートを放つ駿介に惹かれ、彼の想いを胸のど真ん中で受け止められるようになりたいと思っている。
なのに、私はおろしたてのワンピースを着て、陸の隣にいる。
矛盾だらけだ。
「心配するな。二度も、裏切らせたりしない」
「え?」
「そのワンピース、似合ってるよ」
「えっ!?」
「大和とさなえの結婚式で着てた、ピンクのふわふわしたワンピースも可愛かったけど」
確かに、ベージュがかったピンクのワンピースを着た。ウエストを絞っていない、ストレートの膝丈ワンピにシルバーのボレロを羽織っていた。
「よく……憶えてるね」
「ああ」
タクシーの暖房を止めて欲しい。
汗が吹き出しそうなほど、暑かった。
「俺、明日は早番なんだよ」
「え?」
また、急に話が変わる。
さっきから、『え?』と何回言っただろう。
「ホテルでもインフルが流行ってきてて、休む奴増えててさ」
「うん?」
「だから、一、二時間早く行って仕事しなきゃなんなくて」
「大変だね」
「ああ。ってなわけで、今夜はお前をスイートに連れ込んだりできないんだよ」
「……」
スイート?
スイートが、スイートルームを意味すると気づき、私は大きく息を吸い込んだ。
「――なに言っ――!」
「だから、期待を裏切って悪いけど、今夜は食事だけな?」
「……」
期待……?
「期待なんてっ――!」
真っ赤な顔で口をパクパクさせている私を見て、陸は珍しく大口を開けて笑っていた。
「やっぱ、お前と一緒に居るとホッとするわ」
「私は全然ホッとしない!」
「けど、ドキドキはするだろ?」
「――っ! しない!!」
「するよ。絶対する」
「はあ?」
「分厚い和牛を目の前で焼いてもらおうな」
まだお店にも到着していないのに、陸は既に満足気。
「ドキドキするぞぉ? 分厚い肉がすぅって切られるの。肉の焼ける匂いも、口の中で蕩ける柔らかも」
『一度食べてみたいんだよね。目の前で焼いてもらえる鉄板焼き。お金を気にせずにお腹いっぱい食べてみたい! ドキドキしない? 分厚いお肉がすぅって切られていくの』
いつだったか、そんなことを言った。
ほろ酔い気分で。
そんなこと、憶えてたの……?
「金の心配しないで、目一杯食え」
泣きそうだった。
いつ言ったのか、自分でもよく憶えていないようなことを、憶えていてくれた。
大切に想われていると、嫌でも実感してしまう。
「早く行ってよ! だったらもっと楽な格好してきたのに」
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