【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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15.賭け

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 真綾は腕時計に視線を落とすと、残りのカフェラテを飲み干す。

「そろそろ行くね。今日は、彼の家でスープカレーを作るんだ」

「料理、出来たんだ」

 腰を浮かせた真綾が、ストンと腰を下ろし、唇を尖らせた。

「失礼ね」

「悪い。付き合ってた時に食わしてもらったこと、なかったから……」

「食べたい、って言われたことなかったけど?」

「そう……だっけ?」

「駿介は、私の見た目とか、元カレが社会人だったとか、そういう事前情報で頭カチカチにさせてたから、私が料理好きだとか、たまに甘えられたいとか思ってたの、考えもしなかったでしょ」

 確かに、そうだ。

 俺は、年齢より大人びた服装や化粧の真綾は、クールでサバサバした性格だと思った。ぶっちゃけると、お高く留まってる、って感じ。それが、親しくなってみるとそれほどでもなくて、好印象を持った。だが、手入れされた爪や、綺麗な服を見ると、手料理なんて望めなかったし、とにかく格好つけたくて外食ばかりしていた。

 懐事情を言えば、かなり無理をしていた。

「我慢ばっかしてたから、就職のことでモメた時、爆発して別れることになっちゃったんだよね」

「……」

 そうだったろうか。

 そうだったかもしれない。

 真綾が俺のことを考えて、堅実に安定した職に就くのを願ってくれていたことはわかったが、俺はそれが煩わしかったし、就職が決まっていた真綾に劣等感を抱いていた。

 だから、素直に真綾の気持ちを受け止められなかった。

「同じ失敗、しないようにね」

「そうだな」

「じゃ、ね。ご馳走さま!」

 そう言うと、真綾は荷物を抱えて店を出て行った。



 奢るとか言ってねーし。



 こんな風に真綾に振り回されていた頃が懐かしい。

 俺はコーヒーを飲み干し、伝票を持って席を立った。



 我慢……か。



「確かに、な」と、思わず音が漏れる。

 我慢なら、してる。

 本当は、今すぐにでもめちゃくちゃに麻衣を抱きたい。

 濡れなくて、痛がっても構わずに突っ込みたい。

 半年後に、麻衣の身体が濡れなかったからと、聞き訳よく諦めたりできるはずがない。

 だったら、今、無理やりにでも俺のものにしてしまってもいいんじゃないか。

 彼女の奥深くを抉って、注いで、子供が出来たら、名実ともに俺のものにできる。

 そんなことを本気で考えてしまうほど、俺は我慢していたし、嫉妬していた。



 あの男に奪われるくらいなら――。



 地下街に流れるクリスマスソングが、悪魔の囁きのように聞こえた。
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