【ルーズに愛して】私の身体を濡らせたら

深冬 芽以

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【番外編】最後の夜、最初の夜

最後の夜 -2


「あれ? 妊娠はしてなかったけど、婚姻届を出したことは、家族に話したの?」

「ううん。家族には、予定通り明日提出するってことにしてあるの」

「なんで? 一カ月早まったからって、怒られたりしないでしょ?」

「そうなんだけど、フライングした理由が理由だから、駿介が言いづらいみたいで」

 そうなのだ。

 妊娠しているかもしれないとわかった駿介は青ざめ、以前から準備しておいた婚姻届を握り締め、区役所に駆け込んでしまったのだ。

「まぁ、麻衣の親から『子供は式を終えてから』って言われてたし、焦ったんだろうねぇ」

 千尋の言葉に、私は力なく口角を上げた。

 結婚の挨拶に行った時、駿介はうちの親に釘を刺され、緊張のあまり『肝に銘じて励みます!』と口走った。

 父親は口を開けたまま瞬きを繰り返し、母親は顔を赤らめて苦笑いしていた。妹は大笑いし、『白々しくヤッてませんみたいなことを言わないだけ、誠実じゃない』なんて言っていた。

 私と妹は二歳差で、駿介には年上の義妹になるのだが、妹の恋人は十歳年上らしいから、結婚したら、私には八歳年上の義弟ができる。

 因みに、駿介の妹さんは駿介の三歳年下で、私とは十歳違うことになる。が、姉が欲しかったという妹さんは私を慕って、早いうちから『お義姉ちゃん』と呼んでくれた。

 私としても、童顔な私とは正反対に、やけに大人びた雰囲気とスレンダーな身体つきで私の男性遍歴を小馬鹿にしていた実の妹よりも、駿介の妹さんの方がずっと可愛く感じている。

 とにかく、私が検査薬を買いに出ている間に、駿介によって婚姻届を提出され、私は『鶴本麻衣』になった。

「鶴本くんはなんて言ってたの?」と、さなえが頬杖をついて言った。

 元々あまりアルコールに強くないのに、二年振りに飲んだとあって、既に頬が赤い。

「妊娠してなかったってわかって」

「あーーー……、うん。安心してたよ」

「ええっ!? デキてなくて良かったって言ったの?」と、千尋がドンッとジョッキをテーブルに置いた。

「あ! ううんっ! そういう意味じゃなくて。結婚式とか新婚旅行とか、妊娠してたらキャンセルしなきゃいけなくなるのかって、思ったみたいで」

「確かに、招待状出した直後にキャンセルは、嫌だよねぇ」と、さなえ。

「旅行はダメかもしれないけど、式は出来るでしょ? 妊娠してても」と、あきら。

「うん。そうなんだけどね? 妊娠イコールつわりって発想だったみたいで」

「ああ、なるほど」

 三人がうんうんと頷く。

「私が式と旅行を楽しみにしてるの知ってるし」

「そうだね。予定外の妊娠で麻衣の親には叱られるわ、麻衣が楽しみにしてた式や旅行がダメんなるわじゃ、ね」

「それで、安心、か」

「うん」

 私の正面、さなえの背後のテーブルに座る男性四人のうちの一人と目が合った。さっきからチラチラと見られている気はしていたのだが、やはり、会話の内容が聞かれているのだろうかと心配になる。

「じゃ、ハネムーンベビーもあるかもね?」

 千尋の声に、私は彼女の方に視線を移した。

「どうかした?」

「え? ううん。ただ、さっきからさなえの後ろのテーブルの人たちに見られてる気がしたから、話が聞こえてるのかなって思って」

「え?」と、さなえが少し身体を捻って後ろを見て、すぐに身体を戻して前屈みになった。

「声、大きかったかな」
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