続・最後の男

深冬 芽以

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1 心の距離

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「で? なんなんだよ、話って」

 俺は苛立ちを隠さずに、ぶつけた。

「そんな、面倒臭そうに言わなくてもいいじゃないですか」

「面倒臭そう、じゃなくて、面倒臭いんだよ!」

「ひどっ! あやさんは快く送り出してくれたのに」

 それも苛立ちの原因の一つだ。

「人の女の名前を軽々しく呼ぶんじゃねーよ」

 俺は一杯目のビールを飲み干した。ウエイターに二杯目を注文する。



 なんだって、折角の札幌の夜に千堂こいつなんかと飲まなきゃなんねーんだ。



「いいですよね、溝口みぞぐちさんと彩さんは。一年も遠距離してるのに、順調そうで」と、いじけた口調で言うと、千堂せんどうもグラスを空にした。

「今日も彩さんが待っててくれてるんでしょ?」

「わかってんなら解放してくれ」

「いいなぁ。彩さんの手料理……」

 千堂は頬杖をついて、宙を眺めながら言った。

「お前も作ってもらえばいいだろ、冨田とみたに」

「作ってもらえないから、いいなって言ってるんじゃないですか」

 料理なんかしなさそうだもんな、と思った。

「俺も一緒に帰っていいですか?」

「は?」

「彩さんの手料理、食いたい!」

「ビール一杯で酔ってんじゃねーよ」

「手料理だけですから。彩さんを食ったりは――」

 俺は思わず千堂の頭を平手で叩いた。ペシッと。

「くだらねーことばっか言ってんなら、帰るぞ」

 ウエイターが俺と千堂の前にグラスを置く。

 きれいに磨かれたグラス越しに、キンキンに冷えたビールが黄金に輝いている。

 一口、味わう。

「溝口さんは愚痴りたくなることないんですか?」

「ねーな」

「不満がないってことですか? あっても言わない?」

「彩に関しては、前者だな」

「うわっ! ムカつく」

 大げさに言って、千堂はグラス半分を喉に流し込んだ。

 金曜の夜だから、店内はかなり賑わっている。俺たちも十分遅ければ、座れなかったろう。

「彩はどうかわかんねーけどな」と、俺は呟いた。

 ほぼ同時に、店の奥の方でガシャンッとグラスが割れる音が響き、ウエイターがタオルを持って音のした方へ急いだ。

 俺の言葉はグラスの割れる音にかき消されて、千堂には聞こえていなかったようだ。

 札幌と釧路の遠距離恋愛を始めて一年が過ぎた。

 互いに仕事が忙しく、彩には子供もいる。だから、この一年で会えたのは七回。今回で八回目。多分。

 俺は盆と正月に帰り、それ以外は彩が来てくれた。

 今回は本社での経営会議に出席するために、正月明け早々に再び帰って来た。

 正月は、彩と子供たちと初詣に行っただけだった。

 俺の休みが四日しかなかったせいもあるが、彩は妹家族が帰省していたし、俺は俺で姉さんたち家族と過ごしたりしていたから。

 だから、今回は俺が月曜日に有休をとって、日曜の夜まで彩と過ごせるようにした。

 なのに、会議の後で千堂こいつに捕まった。

 断ろうとしたのに、彩が『行って来たら』と余計なことを言った。

 そして、今に至る。
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