続・最後の男

深冬 芽以

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1 心の距離

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 俺の腕に彩の手が添えられる。彼女が四十五度くらい首を捻った。微笑む横顔にホッとした。

 彼女を抱く腕に力がこもる。

「飯、なに?」

「お鍋」

しめは?」

「ラーメンもどき」

「もどき?」

「そ。食べてからのお楽しみ」

 彼女の首筋にキスをして、それから、唇。

「ビール臭い」

「飲んだからな」

「千堂課長も帰ったの?」

「さあな」

「……」

 彩がグイッと首を回して、俺をじっと見た。

「なんだよ?」

「別に」

「小一時間付き合ったんだ、十分だろ」

「ちゃんと話は出来た?」

 彩が俺の腕から逃れ、リビングに向かう。正確には、台所。

 俺は寝室で着替えてから、リビングに向かった。

「ビールは?」

「いや、いい」

 ダイニングテーブルには、既に鍋が乗っていた。二人分にしては大きすぎる土鍋。新しいようだから、彩が買って来たのだろう。

 彩が蓋を開けると、鍋から湯気が溢れ出た。ぐつぐつと音を立てて、沸き立つ。

「美味そ」

「先に言っておくけど、鍋にうるさいこと言ったら、もう作らないから」

「なんだ、それ」

「具材の配置とか、食べる順番とか」

「俺がそんなんにこだわるように見えるか?」

「鍋にだけ、やたらうるさい人っているみたいだから」

 俺は鍋に箸を突っ込んで、鶏肉と白菜をよそった。

「美味けりゃ、なんでもいい」

 一人暮らしだと、冬に鍋を食べるのが少し虚しくなる。仕事帰りにスーパーで半額になっている一人用の鍋を買って来て、タレと水を入れて火にかける。食べている時はそうでもない。一番虚しくなるのは、食べ終わった後。空になった銀色の容器を見ると、底が茶色くなっていて、それを見ると必ずため息が出た。

 心からおひとり様を楽しんでいるのなら、そんな気持にはならないのだろう。

 一人鍋を虚しいと感じている自分が、本当は寂しいのだと思い知らされるのが、嫌だった。

「で? ラーメンもどきって?」

「もう食べる?」

「ん」

 透明な袋には一食分の麺。それを、彩はそのまま鍋に入れた。

「なぁ、彩」

「んー?」

 彩がずずずっと白滝をすする。

「お前も知ってるのか? 噂」

「……」

「変だと思ったんだよ。千堂が俺に女のことで相談なんて」

 千堂が俺を飲みに誘ったのは、冨田の噂が事実かを知りたかったから。だが、千堂が、俺と冨田に面識があることを知っているとは思えない。冨田が話したのなら、別だが。

 だが、それなら、あんなに回りくどい聞き方をしないはずだ。

 彩がやけにあっさりと俺を行かせたのも、何となく引っ掛かっていた。

「今日の会議の後で、専務と部長が話しているのを聞いちゃったの。千堂課長も一緒に」

「冨田の事か」

「『出世の為なら身体を使うし、不倫も厭わないような女を、仮にも本社の営業部長に据えるのはどうなのか』って」
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