続・最後の男

深冬 芽以

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8 彼が愛した女性《ひと》

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 智也から元カノの話を聞いた翌日。

 私は二人分のお弁当を作って、会社に行った。

 凪子さんに話を聞く気満々だった。

 いずれ、凪子さんから話をされるかもしれないけれど、それまで待っていたくなかった。

 人事異動まで一週間。

 どうせ気になる。聞きたくなる。だったら、とっとと聞いてしまいたい。

 どんなに嫌でも、恋人の元カノと仕事をするという現実は変えられない。

 ならば、初対面から臨戦態勢で臨みたい。

「意外……」

 ランチに誘うと、凪子さんが言った。

「彩からは切り出してこないと思った」

「智也もそう思ってるでしょうね。けど、私は智也が思うほど聞き訳がよくも、控え目でもないから」

「あはは」と笑いながら、凪子さんは私の手からお弁当を受け取った。

 包みの結び目を解く。

 私も、自分のお弁当を広げた。

「大体、凪子さんは事情を知ってるって言ったってことは、聞いてくれってことでしょう?」

「確かにね。けど、昨日の今日で、賄賂まで用意したなんて、さすがに溝口も予想してないでしょうね。私はラッキーだけど」

 凪子さんが、蓋を開けて目を細めた。

 前に美味しいと言ってくれた、塩麹味のザンギが入っている。

「溝口からメッセきてたわ。『彩の様子を気にかけてやってくれ』って」

「過保護……」

「大切にされてるじゃない」

「そういうことにしときます」

「――てか、二人の時は敬語とかやめて? たいして年も違わないし、上司と部下の話でもないでしょ」

 フッ、と無意識に思い出し笑いをしてしまった。

「なに?」

「すいません。付き合い始めた頃に、智也からしつこく敬語をやめろって言われたことを思い出して……」

「わかる気がする。彩の敬語って、壁を感じるのよね」

「壁?」

「そ。一線引いてますって宣言されてるみたい。ま、大人だから? 言葉遣いは大切なんだけど。けど、気ぃ張ってる感じ」

 課長、と、敬語、はやめろと何度も言われた。智也が凪子さんのように感じていたかは、わからない。

 単に、堅苦しいのが嫌いなだけにも思えるが。

「それに! 恋バナに相応しくないから」



 恋バナ……。



 なんだか気恥ずかしくなって、苦笑いしてしまった。

「ま、恋バナなんて可愛い話じゃないけどね」

 凪子さんが、ふぅっ、と息を吐いた。

 昨日の智也といい、余程のことがあったのだろう。

 智也の性格を考えたら、大事なことほど他人に任せたりしない。特に、こんなにデリケートな話、凪子さんの言葉のニュアンスで、私が歪んだ受け止め方をするかもしれない。智也なら、そういうのを最も嫌がりそうなのに。 

 それだけ、元カノの話は彼にとっ禁忌タブーなのか。

 それとも、凪子さんになら説明を任せても大丈夫だという、信頼からなのか。
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