続・最後の男

深冬 芽以

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7 彼女の不安、俺の過去

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「家か?」

『車の中』

「車?」

『うん。家に入ったらゆっくり話せないし』

「ああ……。悪いな」

『ううん? どうかした?』

 どこから話そうか、少し考えた。

 何パターンか考えてはいたけれど、結局、どこからどう話しても変わりない。

 腹を括って率直に話すのが一番だろう。

「冨田の後任が決まったろ?」

『え? うん。女の人だって聞いた』

「正直、言いたくないんだけどな?」

『なに?』

「俺の元カノ――なんだよ」

『え――――』

 沈黙。

 珍しく、長い。

 冨田との関係を疑って、一年も黙っていた彩だ。本物の元カノが現れて、軽く流せるとは思えない。

 流されても、嫌だし。

「……彩?」

『――どのくらい……付き合ってたの?』

「……二年」

『それは……』

 彩が聞きたいことは、わかる。

 俺は彩に、まともな恋愛はしてこなかったと話した。事実だ。だが、それに理由があることまでは話していない。

「十年も前のことだし、思い出したくもないことだけど、彩が聞きたいことには答えるから」

 誰にでも過去はある。

 彩に十数年夫だった男がいるように、俺にも恋人と呼べる女がいた。それだけだ。

 それでも、やっぱり、好きな相手に自分以外の誰かの影を見るのは嫌なもので。それは、俺もよくわかる。だから、今の俺に出来るのは、隠し立てしないで話すことだろう。

『真剣に……付き合ってたの?』

「……ああ」

 結婚を考えていた、とまでは言う必要はないだろう。たとえ聞かれても、濁すくらいは許されるはず。

『何があったか、聞かれたくない?』

「……いい別れ方じゃなかったから、恨み言にしかならないと思う」

『そうなんだ……』

 俺は、ズルイ。

 こう言えば、彩がそれ以上聞かないだろうとわかって、言った。

 言いたくなかった。

 わかっている。

 俺は、ズルイ。

 そして、弱い。

 こっ酷く裏切られた過去なんて、惚れた女に話したくない。

 同情もされたくない。

 今も傷が渇いてないんじゃないかなんて、思われたくない。

 今、格好つけても無駄なことはわかっている。

 彩のそばには、冨田がいる。

 冨田は全部知っている。

「冨田は全部知ってるから」

『え?』

「気にして何か言ってくるかもしれない」

『……智也が話したくないこと……とか?』

「ああ」

『聞かない方が、いい?』

 俺は何度、彩の優しさに救われたろう。

 一を話せば九までわかってくれる。そして、残りの一で俺の面子を保ってくれる。

「話したくないけど、お前に知られたくないってわけじゃない」

『……』

 どうして、こう、面倒な言い回しをしてしまうのか。

 仕事以外の面倒を避けて来たつけか。

「彩?」

『……美人?』

「え? あ、どうかな。昔は、まぁ、それなりに?」

『……そっか』

「彩?」

『……大丈夫』

「え?」

『大丈夫だから』

 全然、大丈夫な気がしなかった。
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