続・最後の男

深冬 芽以

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 火曜日。

 徒歩十分ではあるけれど、学校まで真を車で送り、担任の先生と教頭先生に真をお願いしてきた。

 家に帰って掃除や洗濯を済ませ、一息ついてから奥山商事に電話をした。少し緊張したけれど、渡部部長は穏やかに対応してくれた。

 明日の昼食を一緒に、と言われて少し戸惑ったが、受け入れた。場所は、奥山商事近くの和食レストラン。

 私は約束の十分前に店のドアを開けた。予約を入れておくから、自分の名前を伝えるようにと言われていたので、そうした。

 恭しく奥の個室に通された。

 テーブルには、すでに三人分の食器が並べられている。どれも小さくて上品。昼からどんな豪華な食事が出されるのだろうと身構えた。財布には余分に現金を入れてきたが、足りるだろうかと不安になる。誘われたのは私だが、謝罪が目的なのだから、やはり私が出すべきだ。



 接待費で落ちるのかな……。



 末席で待つこと五分。

 渡部部長と氷川主任が到着した。

 立ち上がって挨拶をすると、上座の、部長の向いに座るように言われた。

「お時間を取らせてしまい、申し訳ない」と、部長はおしぼりで手を拭きながら言った。

 私は掘りごたつから足を抜き、正座した。

「いえ。こちらこそ、謝罪の機会を頂き――」

「待ってください。今日は、堀藤さんからの謝罪が欲しくてお呼び立てしたわけではありませんよ」

「え?」

「念のために言っておきますが、食事代も私もちです」

「いえ! それは――」

「今日は、我々が堀藤さんを接待させてもらいます」と言って、部長が微笑んだ。

 部長の隣の主任も頷く。

「どういう……意味でしょう?」

 襖が開き、三名の店員さんが料理を運んできた。目の前に握り寿司とお吸い物、湯気が見える天ぷら、和え物の小鉢と茶碗蒸しが並べられる。



 美味しそう!



 素直に思った。

 部長に促され、私はお吸い物に口をつけた。尾頭付きのエビに見つめられながら、汁をすする。

「美味しい……」

 上品なエビの風味に、思わず呟いた。

「お口に合って、良かった」

「そんな――! こんなに贅沢なお吸い物、初めてです」

 部長は嬉しそうに目を細め、お椀を口に運んだ。

「聞いてもいいですか?」

「はい」と言って、私はお椀を置き、背筋を伸ばした。

「堀藤さんは、今の職場に満足していますか?」

「え――?」

 全く予想していなかった質問。

「千堂課長はあなたを正当に評価しているようだが、益井課長はそうではないようだ」

「……」

 言葉が見つからない。

 お客様にまでわかってしまうほど、益井課長の態度はあからさまだったということだ。社会人として、恥ずかしすぎる。

「少し、調べさせてもらいました。益井課長は、溝口課長と過去にお付き合いがあったんですね。そのせいか、今、溝口課長とお付き合いしているあなたにキツく当たっている。で、間違いありませんか?」

 正解かどうかの答えよりも、私は渡部部長がそんなことを調べた理由を考えていた。

 そんな私の考えを見抜いてか、部長は鮪のお寿司を指で摘まみ、ほんの少しむらさきをつけて口に運んだ。
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