続・最後の男

深冬 芽以

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20 芯まで蕩けて

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 翌日はチェックアウトギリギリまで眠っていた。

 慌てて部屋を出て、昨日買った土産を発送し、ホテルのラウンジで遅い朝ご飯を食べた。

 彩は近くのファストフードにしようと言ったが、鉄板焼きを食わせ損ねた埋め合わせをしたかった。

 ハッキリ言って、二人ともくたくただった。

 だから、スーパーで食材を買って帰り、ソファに並んで座ってくつろいでいるうちに、転寝をしてしまった。

 目が覚めると、既に陽は傾き、ご飯が炊ける匂いがした。

 その夜の食卓には、俺の好物ばかりが並んだ。いつものちらし寿司は、彩のリクエストで生ちらしになったが。豚汁にザンギ、きゅうりの漬物。

 幸せを感じる瞬間。

 俺は二杯目の豚汁をすすり、考えに考えた言葉に続く会話を始めた。

「最近、コンビニ弁当ばっかだったんだよな」

「たまには作りなよ? 出来ないわけじゃないんだし」

「自分の為だけになんて、面倒だろ」

「毎日コンビニ弁当じゃ、太るし、飽きるでしょ」

「うん。だからさ――」

 もう、後には引けない。

 覚悟を決めた。



「毎日、彩の飯が食いたい」



 彩の箸を持つ手が止まった。

 互いの視線が、交わる。

 俺は豚汁を置いた。箸も。

「彩。二年前に俺が言ったこと――」

「――お祝い! どうする?」

「……は?」

 覚悟の言葉を遮られ、一時思考が停止した。

「凪子さんと千堂課長の結婚祝い。智也もあげるでしょ? 何にするか、決めた?」



 結婚……祝い?



「私は……ペアの食器……とかにしよう……かな」

 彩の声が震え、弱々しく、途切れる。

「ありきたりでつまんないかな」

 ぎこちない微笑みは、今にも泣きそうに見えた。



 早まった……か。



 察しの良い彩が、俺が大事な話をしようとしていることに気づかないはずがない。



 気づいていて遮ったということは――。



「家事手伝い券、とかがいいんじゃね?」

 俺は再び箸を持ち、行儀悪くザンギに突き刺した。それを口に放る。

「現金十万貰うより、券十枚の方が喜ばれそ」

「なに、それ。子供の、母の日のプレゼントじゃないんだから――」

「間違いなく、ありきたりではないだろ? 絶対、誰とも被んないし」

 彩の、ホッとした表情に、泣きそうになった。



 まだ、か。



 あるいは、既に時期タイミングを逃してしまったのかもしれない。

 真のことが気がかりなのかもしれない。

 仕事で、ひと悶着あった後なのもよくないのかもしれない。

 とにかく、仕切り直さなければ。

 彩と付き合う前の俺ならば、痺れを切らしていたと思う。

 相手の都合なんかお構いなしに、ドヤ顔でプロポーズしたろう。で、微妙な反応をされてキレていたはずだ。

 だが、俺は彩と付き合って、変わった。

 彩に喜ばれたい。

 その為には、今、じゃない。

 そんな風に思えるのは、彩の気持ちが俺にあることに自信を持てるからでもある。

 昨夜に続き、今夜の彩も積極的で。

 一生分のご奉仕を受けたんじゃないかと思えるほど、とにかく蕩かされた。

 骨抜き、とはこのことかもしれない。

 プロポーズは肩透かしに終わったが、ゴムなしで俺を受け入れてくれるということは、少なからず俺との子供が出来る可能性がある。



 大丈夫。

 俺と彩は、ちゃんと気持ちが繋がってる。



 腰を振りながら、そうやって自分を安心させた。
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