続・最後の男

深冬 芽以

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21 天国から地獄

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 腑に落ちない。

 うまく頭が働かない。

 けれど、それでも、確かな決意があった。



 これで終わりだなんて、許さない――――!



 すっかり陽が落ちた頃、俺はようやく思考回路を繋ぎ合わせ、ベッドの上でうつ伏せに放置された手帳を手に取った。



 俺がすべきことは、変わらない。



 その夜、冷蔵庫の酒は、一本も減らなかった。

 代わりに、炊き立てのご飯に、冷えたちらし寿司の具をのせて、食べた。豚汁も、残さず食べた。

 それから、シャワーを浴びて、さっさと寝た。

 眠れたことに、驚いた。

 翌朝はいつもより一時間早く起きた。

 ご飯と冷蔵庫のタッパのおかずを食べて、誰よりも早く出社した。で、札幌本社に電話をした。ダメもとでかけたのだが、すでに出社していた谷が電話に出た。朝一の会議で使う資料のチェックの為、早く出社していた。

「堀藤が出社したら、俺の携帯に連絡が欲しいんだ」

 変な頼みだとわかっていたが、頼んだ。

 とにかく、彩と話をしなければ。

「変なこと頼んで悪いんだけど――」

『え? 堀藤さん!?』

 谷の、上ずった声。珍しい。

『先週の金曜が、最後の出社ですよ?』

「……はっ――――!?」

 今度は、俺の声が上ずった。

「最後って――。は?」

『ちょ、ちょっと待ってください。え!? まさか、知らないなんてこと――』

 慌てる谷の背後で、俺の気分とは正反対の、陽気な挨拶が聞こえた。

『おはよう。谷、早いな』

 千堂だ。

「悪い、谷。千堂に、携帯から俺の携帯に電話するように言ってくれ」

『あ、はい。わかりましたっ』

 余程焦っていたのか、谷には珍しく乱暴に電話が切れた。

 そして、俺はスマホを握り締めて無人の会議室に駆け込んだ。

 大したことない距離を、大したことない速さで走っただけなのに、心臓だけが全速力で跳ねている。



 最後の出社、って――。



 スマホが振動するや否や、俺は大声で言った。

「彩はどうした!?」

『落ち着いてください』

 千堂の声は、やけに落ち着き払っていた。それが、無性にムカついた。

「うるせぇ! 最後の出社って――」

『堀藤さんは退職しました。知らなかったんですか?』

「……はっっっ――――?」



 退職!?

 会社を辞めたってことか?



 千堂の、深いため息。

『まさか、知らなかったとか――』

「どういう……ことだよ」

『別に、おかしなことじゃないですよ。ひと月前には退職願を出していたし』



 ひと月前!?



「なんで俺に言わないんだよ!」

『溝口さんも転職に賛成してくれている、って聞いてたんですよ』

「はっ!?」

 はぁ、と千堂のため息。

『……ちょっと待ってください。溝口さんは何を知っていて……というか、何にも知らないんですか?』

 バカにされた気分だ。

 いや、実際、されたのだろう。

 自分の恋人のことなのに何も知らないのか、と。

 ムッとしたが、事実だ。

 今は、このスマホ越しに与えられる情報だけが頼りだ。ムカついている場合じゃない。
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