続・最後の男

深冬 芽以

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21 天国から地獄

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「全部、はな――してくれ」

『益井課長のことがあった後、堀藤さんと溝口さんの関係が社内に広まって、好奇心であれこれ噂されたりしてたんです。その頃に転職の誘いを受けて、考えていたそうです。所属が違っても同じ会社で、会議やなんかで顔を合わせることもあるし、溝口さんが本社こっちに戻る妨げになるのは嫌だから、今のうちに――と。転職の条件も良くて、溝口さんも賛成してくれているって聞いて、退職届を受理したんです。――っつーか! どうなってんですか! この三連休は一緒にいたんですよね? 昨日の夜、釧路のお土産持っ
て来てくれましたよ?』

「は?」

『俺は今、凪の家にいるんですけど、堀藤さんと溝口さんからだってお土産のお菓子と、結婚のお祝いをくれましたよ』

「結婚祝い……?」

 そんなようなこと、言っていた。

 だが、食器なんて釧路こっちで買っていない。

『食器?』

「え? 家事手伝い券。溝口さんがススメたって。一年間有効で、ハウスキーパーでもベビーシッターでも任せてくれって笑ってましたけど……」

 確かに、言った。



 ――だから、なんでだよ!



 別れたい男の言葉なんて、無視すりゃいい。アホなこと言ってるって、笑い飛ばせばいい。

 自分から振ってやった、って言っちまえばいい。

『どうなってんですか! なにが――』

「別れてくれって言われた」

『はあ?』

「普通に楽しく過ごしたのに、帰り際になって『もう疲れた』って――」

『それで、おめおめ帰したんですか! バカだろ!!』

 そんなことは俺自身が一番よくわかっている。すぐさま同じ飛行機に乗り込めばよかったんだ。みっともなくても恥ずかしくても、追いかければ良かった。

「うるせー! わかってるよ!! だから、こうして話し合おうと――」

『先々週の金曜には送別会もして、先週の木曜が最後の出勤日でした。有休を消化して、キリの良いところで一月一日付で向こうに入社が決まっているそうです。今月中は何かと忙しいから会いに来られないと思うけど、落ち着いたら新居に遊びに来てくれるって言ってました』

 そこまで詳細に決まっていたことを、俺の耳に入れずにいられたのが不思議だ。

 この一か月、仕事で本社の営業に電話をかけたりした。谷とも千堂とも話した。直接仕事に関係ないから話題にならなかったのかもしれないが、それにしたって、ここまできっちり隠し通せるなんて、最早感心するほどだ。

 だが、ふと思った。

 一月一日まで一か月と三週間。

 彩のことだ。

 収入面や保険関係を考えて、途切れないように退職日を決めそうなものだ。

 以前、学校行事やなんかで、毎年ちゃんと有休を消化できているようなことを言っていた。

 違和感。

「ところで、転職先って?」

『奥山商事です。渡部部長に口説かれたみたいですよ』
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