続・最後の男

深冬 芽以

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 退院の前日。

 診察を受けて、体重や血圧を測った。

 子宮がなくなったくらいじゃ、体重は一キロ程度しか減らないんだと、思わず笑ってしまった。

 丸一日食事をとらなかったのもあるから、厳密には子宮はもっと軽い。



 五キロくらい減ってたら、この痛みも無駄じゃない、って思えるのに。



 そんな、くだらないことを思った。

 退院の日に、智也とお揃いの腕時計をつけたのは、入院の時につけて来たから。

 別れたからといって、この時計を外す気はなかった。

 目の前に智也が現れた時は、夢に見過ぎて幻覚が見えているのか、今も麻酔の影響が残っているのかと思った。

 どうして智也が病院ここにいるのか、どうしてお母さんが智也を『智くん』と呼んだのか、聞きたいことは山ほどあるのに、肩を抱かれた瞬間、涙を堪えるのに必死で、言葉にならなかった。

『絶対、離さない』

 そう言われて、嬉しかった。

 そんな資格、ないのに。

 夜中に何度も目が覚めて、ベッドの下に敷いた布団で眠る智也を眺めた。

 幸せだった。

 これはきっと、手術の痛みに耐えた私への、神様からのプレゼント。

 そんな乙女チックなことまで考えてしまうから、重症だ。

 私は、意を決して、智也と向かい合った。



「俺と結婚してください」



 涙が、溢れた。

 握られた手が、熱い、痛い。



「大事にするから」



 涙で智也の顔が滲んで見えたが、彼の目からも涙がこぼれたのはわかった。

「マンションのローンはもうすぐ終わるし、生命保険も結構な額の入ってるし、お買い得だろ? 嫁姑問題も心配ないし、あ、彩の親の面倒とか……見てもいい。それから――、子供たちが父親に会うのも……構わないし……。もっと出世するから、退職金も期待できるぞ?」

 早口でまくしたてられ、私は思わず笑ってしまった。

「それって――、私がお金目当てに智也と結婚するみたいじゃない」

 つられて、智也も笑う。

「愛があれば他に何もいらない、なんて浮ついた気持じゃないって、証明だよ。現実的で、打算的で、少しだけ感情的なくらいがちょうどいいだろ」

「……確かに」

 涙目で、それでも余裕のある振りをして笑って見せる智也を、可愛いと思った。

 きっと、すごく悩んでくれたと思う。

 こんな、天の邪鬼な私を納得させるためにはどうしたらいいか、どう言えばいいか、すごく考えてくれたと思う。

 そう思うと、ただ純粋に、嬉しかった。

「打算的ついでに、結婚を認めてもらう代わりに、お父さんと真と約束したことがある」

「え……?」

「約束したんだ。子供は作らない、って」

「え――――?」



 子供――。



「お父さんは、彩の年齢とか、腰痛とか、真と亮との関係とかを心配してた。真は――」

 お父さんは、わかる。

 私が子宮を摘出することを知っているから。

 けれど、真は知らない。

 真と亮には、『腰痛を治すための治療』と言った。

 二人には、婦人科の病気の説明は難しいと思ったから。

 けれど。



 真は知ってる――?


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