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25 家族
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しおりを挟む「私が勝手に予定を決めて、智くんが怒らないか心配してるのよ」
「え?」
「どっかの誰かさんは、自分の思い通りにならないとすーぐ不貞腐れちゃったから。彩は、いっつも顔色を窺って、機嫌を損ねないように神経をとがらせてたの。私たちも」
言わずもがな、誰かさんとは彩の元夫。
「あの子のアレは、癖ね」
そう言ってお義母さんは笑ったけれど、さっきまでの楽しそうな笑顔ではなく、どこか寂しそうな不安そうな笑顔。
それから、深々と頭を下げた。
「智也さん。彩のこと、よろしくお願いします」
「え?」
「面倒臭い子だけれど、どうか末永くそばに置いてやってください」
「やめてください! そばにいて欲しいと願ったのは俺の方です。そんな――」
「――それでも! 私はもう、あの子が肩ひじ張って頑張る姿を見たくないんです。もっと気楽に生きて欲しい」
お義母さんの肩越しに、階段の途中でバッグを握り締めて歯を食いしばる彩を見た。
母親の願いを、どんな気持ちで聞いているのか。
「指輪、外させませんから」と、俺はお義母さんではなく、彩を見上げて言った。
「絶対、一生、外させませんから」
それから、お義母さんに視線を移す。
彩だけじゃない。
お義父さんとお義母さんだって、俺との結婚を許すのに相当の覚悟があったと思う。
また、娘が苦しむことになったら。
また、出戻って来ることがあったら。
それでも、二人は俺を認めてくれた。
彩との結婚で、引き受けた幸せは五人分。
一度に五人分の幸せを背負ったと思うと、自然と背筋が伸びた。
「もう、独りで頑張らせたりしませんから」
お義母さんの目に涙が見えた時、彩がわざとらしい足音を立てて下りてきた。
「じゃあ、行って来ます」
「行ってらっしゃい」
彩とお義母さんは、目を合わせなかった。
互いに涙を見られたくないのだろう。
不自然なほど顔を背けた。
「行こう、智也」と言って、彩が俺の腕を引っ張る。
「気を付けてね」と、お義母さんが言った。
「行って来ます、お義母さん」
俺は初めて、母親に『行って来ます』と言った。
指輪を受け取り、昼飯を食って、マンションに行った。
手術後、近くのスーパーに買い物に行く程度の外出しかしてこなかったという彩は、少し疲れたようで、ソファに身体を預け、大きく一息ついた。
「大丈夫か?」
「うん……」
俺は質のいい紙袋からビロードの箱を取り出し、開ける。二つ並んだ、指輪。艶消しの加工がしてあるから、光り輝いているわけではないけれど、俺にはまぶしかった。
店ではサイズの確認だけで、刻印は互いの指輪で確認したから、俺は自分の指輪の刻印を見ていない。
「まだ、見ちゃダメ」
そう言うと、彩が身体を起こし、箱を俺の手から持ち上げた。パタン、と閉めてテーブルに置く。
「いいだろ。ってか、着けないのかよ」
「勿体ないなぁ」
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