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13.力登の願い
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「力登!!」
りとの叫びが会場内に響く。
ドアを開けたスタッフは、何が起こっていたのかわからずとも、自分がドアを開けたせいで何が起こったのかを理解し、青ざめている。
「すいませんっ! 力登くん――」
スタッフを押し退けるように駆け込んできたのは、怜人。そして、紗南ちゃん。
「やあぁっ!」
「力登!」
ジタバタしながら叫ぶ力登を見て、紗南ちゃんが手で口を覆い、怜人を見る。
「ごめん、兄さん。俺たち――」
「――気にするな」
幼い力登から目を離したことは簡単に許されることではないけれど、子守に不慣れな二人に頼んだのは俺だ。
それに、途中で事故に遭わずにこの会場まで来られたのだから、それはそれで良かった。
この状況は良くないけどな……。
「や~だ~っ!」
力登が暴れる。
その力登を腕に抱いて離さないのは、登。
そして、俺は二人から三歩離れて、対峙していた。
「暴れるな!」
子供に慣れていない登の抱き方は不安定で、脇に抱えるように片手で腰を掴んではいるが力登がジタバタするたびにもう片方の手で肩を押さえたり首を掴んだりしている。
落ちるのも危険だが、怪我をするのも心配だ。
「しっちょー!」
力登が俺に向けて両手を伸ばす。
瞳に涙が溢れる。
「しっじょ~~~っ!」
「大人しくしろ!」
「力登、泣くな。大丈夫だから」
「し……っちょーーーっ!」
「うるさい!」
力登が俺を呼ぶたびに、登の苛立ちが増す。
「力登を離せ」
俺は冷静に言った。
力登の泣き声でかき消されないように、冷静に大きな声で、だ。
だが、登に冷静さはない。
「俺の息子だ! 他人のお前にとやかく言う権利はない!」
「りとの息子だ。お前に父親を名乗る資格なんてないだろう!」
「しっちょーっ!」
「うるさい! お前の父親は俺だ。この男じゃない!」
「やあぁ!」
「俺がパパだ! これからも、ママと三人で暮らすんだ」
「やぁだ! しっちょーなの!」
力登の声も登の声もどんどん大きくなり、怒鳴り合い状態。
「力登、泣くな」
「しっちょ……っなの! しっちょー……っいーの!!」
叫びすぎて俺の声も聞こえていない。
嗚咽交じりの声に、胸が痛む。
「りき!」
「パパンッ! しっちょ……っパパ……ン!」
ゲホゲホとむせ返る力登は、苦しそうだが泣き止まない。
「西堂、力登を離せ」
「俺に指図するな!」
「離してやってくれ。苦しそうなのがわからないのか!」
「うるさい!」
「しっちょーーーっ!」
「くそっ――」
「――もうやめて!」
りとが叫ぶ。
彼女が駆け寄ろうとした時、登の手が力登の首を押さえた。
俺はりとの腕を掴み、それ以上近寄らないように制止した。
登に、力登の首にかけた手に力を込めるつもりがなくても、バランスの悪い抱き方をした状態では、うっかりということもある。
最悪の事態を防げる距離にはいるが、万が一ということもある。
「理人、離して――」
俺は登を見たまま、だが彼には聞こえない程度の声で言った。
「――俺が取り戻すから」
「でも――」
「――落ち着いてあいつを説得しろ」
りとが目に涙を溜めて我が子を呼ぶ。
「力登……」
「ままぁ……」
泣き、叫び、咳き込み、力登は苦しそうだ。
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