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13.力登の願い
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「母さんにボールペンまで渡して、結婚する気ないはずないじゃない。まだ! 今は書かないってことでしょ? 大体、なんでこんな大勢の前で――」
胸の前で腕を組んだ哉華が、さも訳知り顔で話す。
「――ので」
微かに聞こえたりとの声に、全員が彼女を見る。
「りとさん? 今、なんて――」
「――私は結婚しません! だって、誰からもプロポーズされてませんから!」
…………っ――!!
「え?」
「は?」
「マジ?」
みんながみんな、思い思いに呟く。
だが、その視線は全て俺に向けられている。
「あ~あ。フラれちゃった」
哉華がフンッと鼻で笑う。
「まだ、フラれたわけじゃないよ」
怜人が俺を庇うつもりで傷を抉る。
「プロポーズされてないんじゃ、結婚しないわよねぇ」
母さんが納得する。
「華純のように逆プロポーズって可能性もあるんじゃないかな?」
父さんがとんちんかんなフォローをする。
「完璧な男だと見込んでいたが、私も耄碌したか……」
じーさんが首を振る。
誰か、まともなフォローをしてくれる家族はいないのか!
「りぃくんにはがっかりだな」
社長がやれやれと言わんばかりにため息を吐く。
「梓、我慢は胎教に良くないからいいぞ?」
皇丞が梓ちゃんの肩にそっと触れる。
梓ちゃんはすぅっと息を吸うと、肩に力を入れた。
「ヘタレ!」
ヘタ……。
「まぁ。皆さん、辛辣ですこと」
姫がふふふと笑う。
俺は一度呼吸を整えて、冷静に姫に言った。
「りとの封筒は、この場で開けないと言っておいたはずですが?」
りとの封筒は、後で二人きり、いや力登も入れて三人になった時に開ける予定だった。
りとと力登の部屋を用意したのは、姫ではなくて俺。
パーティーの行方がどうなろうと、二人を西堂家に帰す気はなかったから。
最上階のスイート、は結婚後に取っておこうと、デラックスツインルームを押さえていた。
そこで開封し、婚姻届に名前を書いてほしいとプロポーズするつもりでいた。
なのに、姫が――!
「この流れで開けずに済むと思っていらっしゃたのなら、読み違えましたわね」
「姫!」
「あ~あ。この状況で他の女を呼び捨てにするとか、ないわぁ」
「哉華は黙って――」
「――姉に向かって――」
「――姉さん! 今はそんなこと――」
「――婚姻届、せっかく書いたのにぃ」
「俺たちの婚姻届より綺麗に書けていたよね」
「曾孫……」
「うるさい!」
ぴーぴーぎゃーぎゃーと喚く家族を一喝する。
この状況を打破するより、滝田やユリアを糾弾する方がよほど簡単だった。
俺は腰に手を当て、もう片方の手で前髪をくしゃりと握る。
ちらりとりとを見ると、それまで俯いていた彼女と視線が絡んだ。
挑戦的に見える表情。
俺に何を望んでいるのか。
公開プロポーズ……とか喜ぶより怒りそうだと思うんだが……。
ここを読み違えてはいけない。
が、まったく読めない。
くそっ! 仕事ならこんなに悩まないのに!
「りと」
りとの肩に力が入る。
好奇と期待の視線で身体に穴が空きそうだ。
見せ物になるなんて冗談じゃない!!
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