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3.元上司がルームメイトになりました
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しおりを挟むピザは箱の蓋にチーズがべっとりついてしまっていた。
篠井さんがそれを素手で取ろうとしたので、さすがに止めた。
チーズを本来の場所に戻してレンジで温めると、見られなくはない姿になってくれた。
一本目のビールはぬるかった。
冷凍庫で冷えるのを待ちきれずに開けたのは私も篠井さんも同じ。
そして、スマホの電源を切ったままなのも、同じだった。
「で? ルームメイトって?」
「そのままだ。ひと部屋空いてるんだろ?」
「空いてますけど、だからって――」
「――また、元カレが来たら?」
缶に口をつけて傾けたが、飲まずに下ろす。
「脅しですか?」
「まさか。懸念事項を――」
「――行く場所がないだけですよね」
「ハイ」
私は缶に口をつけ、一気にほぼ逆さにして飲み干した。
「いい飲みっぷり」
「……ご実家はどこでしたっけ?」
「札幌」
「味噌ラーメンが食べたい」
「ピザ食いながら言うなよ」
くわえたピザを噛み切るが、チーズはのびない。
篠井さんもピザを頬張り、硬くなったチーズを噛み切る。
「思い出すと食いてぇな」
「?」
「味噌ラーメン」
「ああ」
「ラーメンだけは、違うんだよなぁ」
「では、実家に帰られては?」
「女に浮気されて婚約解消して、実家に逃げ帰るか?」
「婚約解消の報告は必要でしょう?」
「……いや」
「え?」
「まだ、言ってない」
「婚約したことですか?」
「ああ」
婚約、というくらいだから、親に紹介しているのだと思い込んでいた。
「込み入ったことを聞きますが」
「ん?」
「婚約者――元カノさんとの馴れ初めは?」
「お前、時々若さに似合わない言葉を使うよな」
「そうですか? 言いません? 馴れ初めって」
「俺は言わねぇな」
「ふ~ん」
立ち上がり、冷凍庫から梅サワーを出す。
缶はキンキンに冷えているが、中はまだそれほどではないだろう。
「ビール飲みます? チューハイもありますよ」
冷凍庫の中で横になっている缶の名前を言うと、篠井さんは「ウイスキーはないのか?」と聞いた。
「私がウイスキーを飲むように見えます?」
「だな。お前、飲み会でビールは乾杯の一杯だけで、あとはカクテルやサワー飲んでたもんな」
「よく覚えてますね」
寝不足からの爆睡、卓襲撃と疲れてるんだか疲れてないんだか、やっぱり疲れてるんだかの状態で、私の身体はほんのり熱く、軽く酔いが回っているようだ。
やけに楽しくて、つい篠井さんに向かって必要以上に笑って見せてしまう。
「篠井さんはいっつもビールとハイボールですよね! 飲み放題メニューにはウイスキーがないこともあるからでしょうけどぉ」
やはり酔い始めている。
頭では冷静にそうわかるのに、口調は軽くて笑いが止まらない。
さっきまで十二分に眠っていたけれど、この調子なら昼夜逆転せずに済みそうだ。
「……ビールくれ」
「はぁい」
冷凍庫からビールを出し、篠井さんに渡す。
篠井さんは缶を開けて、グビグビ音を立てて、多分半分くらい飲んだ。
私も缶を開けて飲む。
思ったより冷えていて、梅の塩味と炭酸のシュワシュワ感がいい感じの調和となり、体温を下げてくれた気がした。
「羽崎」
「はい?」
「札幌味噌ラーメンは麺が縮れてるんだ」
「はい」
「ジンギスカンは食べたことがあるか?」
「いえ」
「美味いぞ」
「そうですか」
「ネットで注文するか」
「はぁ」
篠井さんがスラックスのポケットを探り、辺りをきょろっと見回す。
恐らく、スマホを探しているのだろう。
そう気が付いて私も思い出したが、私たちのスマホはキッチンのカウンターの上で並んでいる。電源を切った状態で。
「篠井さん、スマホなら――」
「――俺は床に布団を敷いても眠れるぞ」
「はぁ」
スマホから話題を逸らしたな……。
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