サレたふたりの恋愛事情

深冬 芽以

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3.元上司がルームメイトになりました

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 事故物件といい、元カノの鬼電、鬼メールといい、篠井さんがこんなにビビりだとは、本当に意外だ。


 仕事では自分が事故処理したり、鬼になったりしてたのに。


「予備の布団はあるか?」

「はい」

「よし。問題ないな」

 なにが? と聞こうとして、やめた。

 聞かなくてもわかる。

 彼の口癖のようなものだ。

 仕事でも、ゴリ押しムリ押しする時、よく言っていた。

 みんな『え、問題だらけでは?』と思っても、それを口に出させぬ気迫で言い切られると、なんとなく『そうか、大丈夫か』と思えてしまう。


 まぁ、実際になんとかしてきたんだけど……。


 ただ、今回に関しては仕事とは違う。

 そして、相手は私。

 唯一『どの辺が問題ないのでしょう』と聞き返せた、篠井課長の腹心の部下である私にそのフレーズは通用しない。

 おそらく、彼も口にしてからそのことを思い出したらしく、ハッとして私から顔を背けた。

「あれだ! 着替えてくるかな」

「はい?」

「昨日から同じ格好だ。いい加減臭いだろ」

「いいえ?」

「シャワーを借りるぞ」

 篠井さんが立ちあがる。

 反射的に私も立ち上がる。


 ここで押し切られてなるものか!


「待ってください! 私はまだ――」

「――家賃は全額俺が払う」

「へっ!?」


 全額!?


「光熱費は折半!」

「はっ!?」


 折半!


「食事も掃除も洗濯も自分でやる」


 ほう。


「元カレが押しかけてきたら守ってやる」

「おっぱい目当てでは?」

「おま――」

「――すみません、今のはナシで」

 流石にふざけすぎたなと反省し、即時撤回する。

「無理だ。俺は傷ついた。すごぉく傷ついた!」

 篠井さんが泣いてますと言わんばかりに、両手で顔を覆う。

「ショック過ぎて、もうどこにも行けない!」

「子供ですか! 鬼の篠井が、部下のうっかり発言に鬼ギレすることはあっても、傷つくなんて――」

「――今は仕事中じゃないし、お前はもう部下じゃないだろ。可愛い女の子にエロじじい呼ばわりされたら、普通に傷つく! まだ開き直れるほど年くってない!」

「それならなおさら! 可愛い部下とひとつ屋根の下、間違いがあったらどうするんですか!」

「だから部下じゃないって言ってるだろ。それに間違いってなんだよ。二人とも気兼ねする相手はいないし、なんの問題もないだろ」

「どうして問題が起きる前提なんですか!」

「お前が言い出したんだろ」

「おっぱい発言したのは鬼篠でしょ!」

「腕におっぱい押し付けてきたのはお前だろ。つか、鬼篠言うな! 陰でそう呼ばれてるって知って、マジ泣きそうだったんだからな!」

「……そうなんですか!?」

 いい年した大人がふたり、土曜の夜に大騒ぎ。

 興奮しすぎだ。

 無駄に大声を張り上げて、疲れた。

 私はふぅっと息を吐いて、その場に座った。

 そして、ようやく気が付いた。

「可愛い女? ……の子?」

「?」

「今、私のこと、可愛い女の子って言いました?」

 篠井さんが右斜め上を見上げる。

「イッテマセン」

「人が嘘を吐くとき、右上を見るって本当だったんですね」

「……お前から見たら左だろ」

「なんですか、その屁理屈」

 今、ようやく気が付いたが、篠井さんも酔っているのかもしれない。

 いや、私の知る鬼篠はビールの一缶や二缶で顔色を変える人間ではない。

 だが、顔が赤い。

 なんだか目も虚ろ。

「篠井さん、酔ってます」

「酔ってねーし!」


 酔ってんな……。


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