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3.元上司がルームメイトになりました
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「そうですよね。婚約者に裏切られた翌日に、次の恋人のことなんて考えられないですよね。しかも、あんな美人で百戦錬磨な婚約者を忘れさせてくれる女性なんて、そう簡単に見つかりませんよね。仮に見つかっても、篠井さんを好きになってくれるとは限りませんし。そもそも、そんな女性なら既に相手がいるでしょうし。探しても見つからないより、探さない方が格好がつきますよね」
「おい。同調しているようで何気に俺をディスってないか」
「まさか! そんなわけないじゃないですか」
間違っても、鬼篠を赤鬼に重ねて同情しているなんて言えない。
鬼篠が『泣いた赤鬼』を知ってるとも思えないが。
あれ? そういえば、あの話ってどうして赤鬼が泣いたんだっけ?
確か、人間と仲良くなりたいのになれなくて、だったか。
ん? そもそも、どうして赤鬼は人間と仲良くなりたかったのだろう。
青鬼や黄鬼とは仲良くなかったのだろうか?
黄鬼? っていた?
緑鬼?
「いや、信号じゃないんだし」
「は?」
「赤鬼、青鬼、黄鬼……って、語呂が悪くありません?」
「何の話をしてるんだ」
「いえ、泣いた赤篠って絵本の――」
「――ほう。『泣いた赤鬼』なら聞いたことがあるが、まさか俺が主役の絵本があるとは初耳だ。いや、俺は鬼篠であって赤篠ではないから、俺のことではないのか? それとも、パロディか? 著作権や人格権はどうなっているんだろうな?」
「鬼に人格権なんかあるはず――。ん?」
なんの話をしてるんだっけ?
「お前の独り言のデカさは救いようがないな」
ハッとした時には既に遅し。
真正面から鬼篠の鬼圧を感じる。
「いいか。日頃から言っているだろう。他人に思考を読ませるな。表情も、だ。頭脳戦は騙し合いだ。いかに自分の言葉に説得力を――」
「――待ってください! 篠井課長が言ったんですよ? 私はもう部下ではありません。それに、今の私の所属は経営戦略課ではなく経理課です。頭脳戦ではありますが、騙し合う必要はありません」
「そう……だったな」
篠井節が止む。
私が彼の部下だったのは四年も前のことなのに、話をしているとなぜか当時にトリップしてしまう。
「本題に入る前に、いったん整理しよう」
まだ本題に入っていなかったのか? と思ったが、口にはしなかった。
また、話が逸れる。
「まず、俺と羽崎はもう上司と部下の関係ではない。俺は課長でも鬼篠でもない。お前は経営戦略課所属でもない」
私は大きく頷く。
「昔のクセとは厄介なものだが、お互いに気をつけるようにしよう」
「はい」
「次に、俺が言ったしばらく女はいらない件についてだが、羽崎の発言では、傷心ゆえの負け惜しみと思われているようだが、それは違う」
「!?」
違うの!? と口にしそうになって、慌てて口を噤んだ。
鬼篠の圧が、そうさせた。
あ、鬼篠って言っちゃった。
いや、思っただけだからセーフか。
気をつけなければ、と唇をぎゅっと結んで篠井さんの話に集中する。
「お前も言ったように、男と女が出会って恋愛関係となるまでには年月と相応のプロセスが必要不可欠だ。もちろん、個人差はあるが、俺は一目惚れやワンナイトから始まる関係は経験がない」
「はぁ」
「好奇心からの質問だが、お前は?」
「はい?」
「一目惚れやワンナイトの経験だ」
「ありません」
「そうか。となると、やはり、俺たちが新たに恋愛関係を築けそうな異性と出会い、親交を深め、恋愛感情を認識し、それを共有、維持するには、努力と時間が必要だな」
「そうですね」
異性限定なのか? と思ったことも、飲み込んだ。
私は女性に恋愛感情を抱いたことはないし、篠井さんも異性に限定して話しているところを見ると、そうなのだろう。
「俺は、その努力と時間を女に向ける気になれない。これは、負け惜しみではなく心の底から面倒くさいと思うからだ」
面倒くさい……。
なるほど。
それならば仕方がない、と素直に思った。
「まぁ、面倒くさい以上に必要性を感じないしな」
「女は必要ない?」
じゃあ、おと――。
「あ! だからと言って男がいいというわけではないぞ」
読まれた。
なぜか、悔しい。
「あ、じゃあ、どうして結婚しようと?」
「ああ」
返事を反故にして、篠井さんが立ちあがる。
キッチンに行って冷蔵庫からビールとミネラルウォーターを持って戻ると、ミネラルウォーターを私の頬に当てた。
当然、冷たい。
だから、そう言った。
「つめた――」
「お前のことだ。呑気にシャワー浴びてる俺に飲ませてやるかと思って飲み過ぎたんだろ」
フッと笑うと、彼は元の場所ではなくソファに座った。
「おい。同調しているようで何気に俺をディスってないか」
「まさか! そんなわけないじゃないですか」
間違っても、鬼篠を赤鬼に重ねて同情しているなんて言えない。
鬼篠が『泣いた赤鬼』を知ってるとも思えないが。
あれ? そういえば、あの話ってどうして赤鬼が泣いたんだっけ?
確か、人間と仲良くなりたいのになれなくて、だったか。
ん? そもそも、どうして赤鬼は人間と仲良くなりたかったのだろう。
青鬼や黄鬼とは仲良くなかったのだろうか?
黄鬼? っていた?
緑鬼?
「いや、信号じゃないんだし」
「は?」
「赤鬼、青鬼、黄鬼……って、語呂が悪くありません?」
「何の話をしてるんだ」
「いえ、泣いた赤篠って絵本の――」
「――ほう。『泣いた赤鬼』なら聞いたことがあるが、まさか俺が主役の絵本があるとは初耳だ。いや、俺は鬼篠であって赤篠ではないから、俺のことではないのか? それとも、パロディか? 著作権や人格権はどうなっているんだろうな?」
「鬼に人格権なんかあるはず――。ん?」
なんの話をしてるんだっけ?
「お前の独り言のデカさは救いようがないな」
ハッとした時には既に遅し。
真正面から鬼篠の鬼圧を感じる。
「いいか。日頃から言っているだろう。他人に思考を読ませるな。表情も、だ。頭脳戦は騙し合いだ。いかに自分の言葉に説得力を――」
「――待ってください! 篠井課長が言ったんですよ? 私はもう部下ではありません。それに、今の私の所属は経営戦略課ではなく経理課です。頭脳戦ではありますが、騙し合う必要はありません」
「そう……だったな」
篠井節が止む。
私が彼の部下だったのは四年も前のことなのに、話をしているとなぜか当時にトリップしてしまう。
「本題に入る前に、いったん整理しよう」
まだ本題に入っていなかったのか? と思ったが、口にはしなかった。
また、話が逸れる。
「まず、俺と羽崎はもう上司と部下の関係ではない。俺は課長でも鬼篠でもない。お前は経営戦略課所属でもない」
私は大きく頷く。
「昔のクセとは厄介なものだが、お互いに気をつけるようにしよう」
「はい」
「次に、俺が言ったしばらく女はいらない件についてだが、羽崎の発言では、傷心ゆえの負け惜しみと思われているようだが、それは違う」
「!?」
違うの!? と口にしそうになって、慌てて口を噤んだ。
鬼篠の圧が、そうさせた。
あ、鬼篠って言っちゃった。
いや、思っただけだからセーフか。
気をつけなければ、と唇をぎゅっと結んで篠井さんの話に集中する。
「お前も言ったように、男と女が出会って恋愛関係となるまでには年月と相応のプロセスが必要不可欠だ。もちろん、個人差はあるが、俺は一目惚れやワンナイトから始まる関係は経験がない」
「はぁ」
「好奇心からの質問だが、お前は?」
「はい?」
「一目惚れやワンナイトの経験だ」
「ありません」
「そうか。となると、やはり、俺たちが新たに恋愛関係を築けそうな異性と出会い、親交を深め、恋愛感情を認識し、それを共有、維持するには、努力と時間が必要だな」
「そうですね」
異性限定なのか? と思ったことも、飲み込んだ。
私は女性に恋愛感情を抱いたことはないし、篠井さんも異性に限定して話しているところを見ると、そうなのだろう。
「俺は、その努力と時間を女に向ける気になれない。これは、負け惜しみではなく心の底から面倒くさいと思うからだ」
面倒くさい……。
なるほど。
それならば仕方がない、と素直に思った。
「まぁ、面倒くさい以上に必要性を感じないしな」
「女は必要ない?」
じゃあ、おと――。
「あ! だからと言って男がいいというわけではないぞ」
読まれた。
なぜか、悔しい。
「あ、じゃあ、どうして結婚しようと?」
「ああ」
返事を反故にして、篠井さんが立ちあがる。
キッチンに行って冷蔵庫からビールとミネラルウォーターを持って戻ると、ミネラルウォーターを私の頬に当てた。
当然、冷たい。
だから、そう言った。
「つめた――」
「お前のことだ。呑気にシャワー浴びてる俺に飲ませてやるかと思って飲み過ぎたんだろ」
フッと笑うと、彼は元の場所ではなくソファに座った。
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