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「鬱のせいってことは――」
「――ああ、違うの。最初は鬱のせいだったけど、治ってからは主人の方が寂しがっちゃったのよ」
「え?」
光希母が優しい表情で、レジ前でケーキを選ぶ光希の背中を見つめる。
「光希を育てるのに必死になっていたら、亡くなった子供のことを思い出して悲しんだり、主人の浮気の心配なんてしてる余裕なんてなくなちゃって、本当に自然と治ったの。そうしたらね? 主人が『もう浮気の心配をしてくれないのか?』っていじけるようになっちゃって」
片手を頬に当てて、少し照れくさそうにうふふっと微笑む光希母は、なんとも可愛らしくて幸せそう。
それにしても、両親の仲がいい事情を知ったら光希はどう思うか。
「光希には内緒よ」
「はい」
実の子と言えども、両親のことをすべてわかっているわけではないし、すべてわかる必要もない。
自分に亡くなった姉がいることを、いつか知る日がくるとしても、そのいつかがくるまでは知る必要がないと光希母は判断した。
お母さんもそうだったんだろうか……?
私の問いの答えを、私が知る必要はないと判断したから『大人になったらわかる』なんて言葉で誤魔化したのか。
それが正しいかはわからないけれど、お母さんはきっと私に知られたくなかったのだろうと冷静に思えた。
そんな風に思えるのはきっと、光希母に私は悪くないと言ってもらえたから。
私は光希母に頭を下げた。
「今日は、ありがとうございました」
顔を上げると、光希母が少し心配そうな表情に見えた。
私を気遣ってくれるその気持ちが嬉しくて、また涙が出そうになった。
「ハンカチ、洗ってお返しします。今度は私から誘わせてください」
「待ってるわ」
テーブルの上に少し大きさの違うケーキの箱が二つ、置かれた。
「あら?」
光希が、小さい方を光希母の前に差し出す。
「父さんと母さんの分」
「ありがとう」
どうして大きさが違うのか。
ちらりと、いやじとっと光希を見ると、視線の意味に気づいたらしい光希がうなじをぽりぽりと搔きながら箱を持った。
「美味そうなのばっかで選べなかったんだよ」
呆れ交じりに笑う光希母にもう一度お礼を言って、私と光希は店を出た。
「――ああ、違うの。最初は鬱のせいだったけど、治ってからは主人の方が寂しがっちゃったのよ」
「え?」
光希母が優しい表情で、レジ前でケーキを選ぶ光希の背中を見つめる。
「光希を育てるのに必死になっていたら、亡くなった子供のことを思い出して悲しんだり、主人の浮気の心配なんてしてる余裕なんてなくなちゃって、本当に自然と治ったの。そうしたらね? 主人が『もう浮気の心配をしてくれないのか?』っていじけるようになっちゃって」
片手を頬に当てて、少し照れくさそうにうふふっと微笑む光希母は、なんとも可愛らしくて幸せそう。
それにしても、両親の仲がいい事情を知ったら光希はどう思うか。
「光希には内緒よ」
「はい」
実の子と言えども、両親のことをすべてわかっているわけではないし、すべてわかる必要もない。
自分に亡くなった姉がいることを、いつか知る日がくるとしても、そのいつかがくるまでは知る必要がないと光希母は判断した。
お母さんもそうだったんだろうか……?
私の問いの答えを、私が知る必要はないと判断したから『大人になったらわかる』なんて言葉で誤魔化したのか。
それが正しいかはわからないけれど、お母さんはきっと私に知られたくなかったのだろうと冷静に思えた。
そんな風に思えるのはきっと、光希母に私は悪くないと言ってもらえたから。
私は光希母に頭を下げた。
「今日は、ありがとうございました」
顔を上げると、光希母が少し心配そうな表情に見えた。
私を気遣ってくれるその気持ちが嬉しくて、また涙が出そうになった。
「ハンカチ、洗ってお返しします。今度は私から誘わせてください」
「待ってるわ」
テーブルの上に少し大きさの違うケーキの箱が二つ、置かれた。
「あら?」
光希が、小さい方を光希母の前に差し出す。
「父さんと母さんの分」
「ありがとう」
どうして大きさが違うのか。
ちらりと、いやじとっと光希を見ると、視線の意味に気づいたらしい光希がうなじをぽりぽりと搔きながら箱を持った。
「美味そうなのばっかで選べなかったんだよ」
呆れ交じりに笑う光希母にもう一度お礼を言って、私と光希は店を出た。
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