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12.嫉妬
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しおりを挟む月曜日。
首元が窮屈そうなニットにジャケットを羽織った千尋の、責めるような視線を何度も感じた。が、反省は少しだけで、彼女が四六時中俺を、正確には俺の付けた印を意識していると思うと、所有欲と言うか独占欲が満足した。
「有川主任」
新規の顧客との打合せ資料をバッグに詰め込んでいると、背後から聞き慣れた声で呼ばれた。上機嫌で振り向くと、不機嫌そうな千尋が立っていた。
「何? 相川主任」と、わざわざ彼女を役職付きで呼ぶ。
「この後、長谷部課長が同行予定の初回打ち合わせですが、私が代わりに同行することになりました」
「え?」
「たった今、課長からの電話で、新幹線の到着が一時間ほど遅れるから代わりに行くように指示があったので」
「……」
これから会う顧客は特別で、上層部からくれぐれもと念押しされて、俺と長谷部課長で担当することになっていた。方向性も何も決まっていないから、ひとまず部下にも詳細は伝えていない。
しかも、上層部からは、担当は優秀な男性社員で、とのお達しもあった。
「あくまでも今回限りの代理です」
自分が同行することに俺が難色を示していると思ったのか、千尋が付け加えた。
もちろん、千尋の力量を疑ってのことではない。わざわざ、担当は男性を、と指定してくるのだから、何か理由があるに違いない。その理由がわからないから、考えあぐねる。
だが、俺同様に事情を知っている長谷部課長が千尋に指示を出したのなら、課の違う俺が口出しするのもお門違い。
「わかった。初回打ち合わせっつっても、厳密にはオファーがあっただけで正式な契約は結んでいない。今日は、顔合わせと、先方のご希望伺いってところだ」
「わかりました」
「一号車押さえてあるから、十分後に地下駐車場。予定表には俺が書いとくから」
「はい」
「あ、直帰予定だから」
ジロリ、とひと睨みしてから、千尋はパーテーションで区切られた隣の課に戻って行った。
俺は社用のスマホを取り出し、スケジュールアプリを開いて既に入力済みの予定の『同行者:長谷部課長』を『同行者:相川主任』と書き換えた。それから、初回打ち合わせに必要な書類一式とタブレットを詰め込んだバッグを担ぎ、車の鍵をポケットに入れ、どちらの課からも見える場所に掛けられているホワイトボードの自分の欄と千尋の欄にペンを走らせた。
『大河内邸打合せ、直帰』
隣を覗くと、千尋がバッグの中身をチェックしている。
俺は先に地下駐車場に下りた。
千尋もすぐに下りてきて、俺は打ち合わせ場所に向けて車を出した。
「着くまでに、お客様の情報を聞いておいてもいいですか」
二人きりだと言うのに、千尋は仕事モードのまま。公私混同はしないと決めてはいるが、理由がそれだけではないことはわかっている。
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