【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以

文字の大きさ
124 / 147
15.指輪を外しても

しおりを挟む



「どういうことよ!」

 置かれた状況に声を荒げたのは、美幸ではなく忍だった。

 美幸は黙って、俺を睨みつけている。

 俺は美幸の視線をスルーして、熱々のコーヒーに口をつけた。

 対して、東山は修羅場の始まりにコーヒーどころではない。

「色々と面倒なんで、まとめて決着をつけてもらおうと思いまして」と、俺は言った。

 美幸に直接会うことを拒否されて、俺は東山に連絡した。そして、現状を話し、美幸と東山の妻を呼び出して欲しいと頼んだ。

 東山は何も言わずに了承した。

 俺から別居を聞かされて、東山は妻にも美幸にも離婚を促していたという。だが、二人とも応じることはなく、疲弊しているようだった。

「離婚なんてしないわよ」と、忍が言った。

 美幸はじっと、忍を見据えている。そんな美幸を、東山は心配そうに見つめていた。

 隣でキャンキャン吠えている妻に一瞥もくれないところを見ると、東山が妻に対してなんの情も持ち合わせていないことがハッキリとわかる。

 修羅場は必至だったから、ゆっくりと話せるように東山のオフィスで集まった。

「いいじゃない! 美幸との不倫を認めてるんだから。離婚しなくったって、今まで通り付き合っていいって言ってんのよ? それでいいじゃない!」

「お互いに別の相手がいて、夫婦であり続ける理由なんかないだろ」と、東山がか細い声で言った。

「あるわ! 子供たちはどうするのよ!? 由麻ゆま恵麻えまのことを考えたら――」

「――だからだ。自分たちを放って、両親は別々の相手と会っているなんて、二人が知ったらどう思うか」

「別に放ってなんかいないわよ。ちゃんとうちの両親に面倒を見てもらってるじゃない!」

「そういう問題じゃないだろ!」

 ヒステリックに、まともではないことをさもまともなことのように話す妻に、東山が声を荒げた。

 美幸が目を丸くして東山を見る。

 勝手な想像だが、東山が大声を上げるのは珍しいことなのだろう。

「俺がとやかく言えないのは重々承知しているが、母親が派手な格好をして、頻繁に外泊するなんて普通じゃないことくらい、由麻はもうわかる年齢だ。俺がきみの実家に二人を迎えに行くと、由麻は泣きそうな顔で『お帰りなさい』と笑うのを知っているか!?」

「なによ! 愛人と楽しんだ後に子供を迎えに行くのが偉いとでも言うの!? 自分が外泊できないからって、これ見よがしに――」

「――子供たちを迎えに行ってあげてと俺を追い返すのは美幸だぞ!? 実の母親であるきみよりも、愛人の方がよっぽど子供たちを気にかけているなんておかしいと思わないのか!」

 東山の言葉に、忍は唇を噛み、般若の如く目尻を吊り上げて美幸を睨みつける。

「あなたに媚びてるだけでしょ! とにかく、離婚はしないわ!」

「そうか。だが、俺はあの家を出る。きみの両親にも話す。事務所の代表も降りる。お義父さんに返すよ」

「だめよ! 何を言っているの!? あなたに継がせるために事務所を新築までしたのよ? そんな勝手が許されるはずないでしょ!!」

「いくら謝っても足りないのは重々承知している。だが、それでも、何度でも謝る」

「ダメよ! 絶対にダメ!!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

網代さんを怒らせたい

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「なあ。僕たち、付き合わないか?」 彼がなにを言っているのかわからなかった。 たったいま、私たちは恋愛できない体質かもしれないと告白しあったばかりなのに。 しかし彼曰く、これは練習なのらしい。 それっぽいことをしてみれば、恋がわかるかもしれない。 それでもダメなら、本当にそういう体質だったのだと諦めがつく。 それはそうかもしれないと、私は彼と付き合いはじめたのだけれど……。 和倉千代子(わくらちよこ) 23 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 デザイナー 黒髪パッツン前髪、おかっぱ頭であだ名は〝市松〟 ただし、そう呼ぶのは網代のみ なんでもすぐに信じてしまい、いつも網代に騙されている 仕事も頑張る努力家 × 網代立生(あじろたつき) 28 建築デザイン会社『SkyEnd』勤務 営業兼事務 背が高く、一見優しげ しかしけっこう慇懃無礼に毒を吐く 人の好き嫌いが激しい 常識の通じないヤツが大嫌い 恋愛のできないふたりの関係は恋に発展するのか……!?

処理中です...