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2 二歳年下の上司
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しおりを挟む震えた声が、やけに色っぽかった。
本当は俺が怖いくせに、怖くないと言った時の目が美しかった。
すぐに泣く女は嫌いだ。大っ嫌いだ。
だから、これまで付き合ってきた女はみんな、自立した気の強い女。男に依存しない、女。
けれど、どの女とも長く続いたことがない。
依存しないイコール必要じゃない、から。
最初のうちは大人の関係だと思える。けれど、三か月もするといてもいなくても良くなる。そのうち、セックスの為だけに連絡を取って仕事を調整するのが面倒になる。
そして、気がつく。
ああ、俺にはこいつは必要ない。
俺がそう思う時、大抵は相手も同じことを思っている。
だから、電話一本、メール一通で別れられる。円満に。
そんなことをしているうちに、三十六歳になった。来月には三十七歳になる。
自分が優秀だと自覚はある。けれど、他人にも容赦ない性格のせいで、出世が遅い。それも、自分のせいだとわかっているから、仕方がない。
とはいえ、ここ数年は友人や後輩の結婚と出産が続き、この一年程は女とも縁がなかった俺は、少し考えが変わりつつあった。
俺の人生、何が楽しい――?
家庭を持った友人は飲んでも愚痴ばかりで、二言目には『独身のお前が羨ましい』と言う。
温かい食事が用意された明るい家に帰ったことのない俺には、彼らの気持ちが理解できない。
職場では恐れられるばかりで、女性社員はもちろん、男性社員も俺と仕事をするのを嫌がっている。
時々、思う。
どんなに仕事を頑張っても、俺の行きつく先は孤独死か……。
三歳年下の後輩は、俺より若くして同じ課長職に就いた。俺ほど仕事ができるとは思えないが、容量がよくて人当たりがいい。女性社員にも人気がある。
そいつがパートのおばさんと話しているのを、偶然聞いた。
『面白かったです、教えてくれた映画』
ピンときた。
年上好きか?
勘は当たっていた。
俺に怯える彼女の前で、千堂は初めて俺に意見した。
ヒーロー気取りかよ。
面白くなかった。
ミスしたくせに怒られて泣く近藤も、若い女にモテるくせに年上のパートにいいところを見せようと噛みついてくる千堂も、俺が怖いくせに甘ったるいコーヒーを飲ませた堀藤も。
「あんたも俺が怖いか?」
千堂が、堀藤が『怖い』と言うことを願っているとわかった。そう言えば、俺の興味がそがれると思って。
けれど、彼女は俺の目を見据えてきっぱりと言った。
「怖くありません」
面白い……。
やきもきしている千堂を尻目に、俺は楽しくなってきた。
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