最後の男

深冬 芽以

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「コーヒー、飲むか?」

「いただきます」

 彼女は手際よく真心の着替えを手伝い、パジャマを片付けた。

「そういや、朝飯はどうするつもりだった?」

 カップを渡しながら、聞いた。

「ラウンジで軽く食べるか、近くのファミレスにでも入るつもりでした」

「じゃ、とりあえずチェックアウトするか」

 コーヒーを一杯飲み、身支度を整え、俺たちはホテルを出た。

「真心ちゃん、お腹空いてる?」と、車に乗ると彼女が聞いた。

「……少し」

「課長。課長のお宅までどのくらいですか?」

「ん? この時間だから三十分もかからないと思うけど」

「じゃあ、課長のお宅に向かってください。チャイルドシートがないので、あまりウロウロしない方がいいと思います」

 言われて気がついた。

 振り返って真心を見ると、尻に彼女のバッグを置いて、シートベルトをしていた。

「悪い。気づかなかった」

「緊急事態でしたから。真心ちゃん、途中で具合が悪くなったり、お腹が空いて我慢が出来なくなったら言ってね」

 真心が大きく頷いた。

「真心ちゃんは何が食べたい?」

「おにぎり!」

「何味がいい?」

「シャケ」

「コンビニのでも食べられる?」

「食べれるけど、あんまり好きじゃない」

「どうして?」

「シャケがボロボロしちゃうから」

「じゃあ、どんなのなら食べられる?」

「まぜまぜの!」



 まぜまぜ?



 俺には全く想像が出来なかったが、彼女はわかったらしい。

「課長のお宅の近くに、この時間から開いてるスーパーはありますか?」

「あるけど」

「寄ってください」

 二十分で到着した。

 車中での堀藤と真心の会話は親子のようで、自分が結婚して子供が出来たらこんな風なのかなと思った。

「マンションすぐそこだから、車置いてくる」

「わかりました」

 俺はマンションに車を入れ、真心の荷物を部屋に置いて、ざっと部屋を見回してからスーパーに向かった。

 この流れだと彼女が部屋に入る。

 とりあえず、見られてマズいものはない。

 今日一日を真心と二人で過ごすのは時間を持て余すから、彼女の時間の許す限り一緒にいてもらいたいと思っていた。だから、俺のマンションに来てもらえるのは助かる。

 だが、これ以上彼女に自分の領域テリトリーへの侵入を許して、何事もなかったように解放してやれる自信がない。

 俺がスーパーに入ると、二人はお菓子売り場にしゃがみこんでいた。

「何してんだ?」

 かごにはご飯とふりかけ、総菜のパックが入っていた。

 彼女は立ち上がり、真心に聞こえないように、俺に近づいて言った。

「買うお菓子を選んでるんです」

「全部買えば?」

「ダメですよ。本当に欲しいものがわからなくなっちゃいますから」

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