最後の男

深冬 芽以

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7 彼女の素顔

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「どうして三課に在庫があるとわかったんですか?」

 会議の後で、千堂が聞いた。

 部長は倉田と話しながら出て行った。小会議室ここには俺と千堂の二人。

「俺が知っていたらおかしいか?」

 千堂への敵対心を隠さずに、棘のある言葉を選んで言った。

「いえ。僕は他の課の業務までは把握できていないので、知っておいた方がいいものかとおもいまして」

 遠回しに『あんたが他の課にまで気が回るとは思えない』と言われているように感じた。

「堀藤だ」

「え?」

「あいつが三課に在庫があることを教えてくれた」

 三人の課長の中で一番若く、経験も少ない千堂は、会議でも最低限の発言しかしない。生意気だと叩かれないよう、わきまえている。だが、今の千堂は生意気そのもので、一丁前に『男』の顔で俺を睨みつけていた。

「さすが堀藤さんですね。やっぱり、彼女には僕の補佐をお願いしたいです」

「使いこなせなくなったら、いつでも二課が引き受けるぞ」

「絶対、渡しません」



 宣戦布告……か。



「まぁ、いいさ。会社ここでは譲ってやるよ」

「まるで溝口さんの恋人ものみたいな言い方ですね」

「そう聞こえたか?」

「いえ。溝口さんがそう言いたいのはわかりました」



 俺の独り相撲だってか――。



「お前にあいつは無理だ」

「部下とは言え、女性に『あいつ』は失礼じゃないですか」

「どうかな。気にしないと思うぞ、あいつは」

 千堂がムッとした表情を見せた。

 千堂が彩のことを話すことに俺がムカつくように、千堂も俺が彩のことを話すのがムカつくのだろう。

 同僚と女の取り合いをする気はない。

 仕事に影響がありそうな面倒は避けたい。

 だが、売られた喧嘩に背を向けるつもりもない。

「千堂。自分の言動には責任を持てよ」

「はい?」



 わかってなさそうだな……。



「いずれ、わかる」

 その日、とにかく機嫌の悪かった俺は、再び甘すぎるコーヒーを飲まされることになった。
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