最後の男

深冬 芽以

文字の大きさ
122 / 212
14 欲しいものと必要なもの

しおりを挟む

「近藤さんと総務の京本さんと豊沢さん、自宅謹慎してるんですけど、多分懲戒解雇クビになりますよ」

「京本さんと豊沢さんも?」

 二人が出社していないことにも、気づいていなかった。

「はい。取引先の冗談を真に受けて、合コン感覚で接待したらしいです」

「それで枕営業? 実際にシちゃったってこと?」

「らしいです。三人ともかはわかりませんけど、少なくとも京本さんは確実に」

 宮野さんは豚串を皿に取り、肉を串から抜いていく。

「どうして京本さんだけ確実?」

「妊娠したから」

「妊娠!?」

「そ。で、コトが発覚したってことです」と言って、肉を口に放り込む。

「それ、いつの話?」

「わかったのは今週の月曜で、接待は一か月半くらい前らしいです」

「一か月半前って――」

 三月中旬のことだ。

「はい。千堂課長のことで堀藤さんに噛みついた頃ですね」

「京本さんたちは千堂課長が好きなんじゃなかったの!?」

「本気なわけないじゃないですか」と、宮野さんがグラスを空にした。

 メニューを開く。

 私もグラスを飲み干した。

「けど、いくら京本さんが妊娠したからって、そこまでの騒ぎになる? 結局は当人同士の問題でしょう? それに、相手もいい思いをしたなら――」

「社長の息子だったんですよ」

「え?」

「京本さんの相手」

「ええっ!?」

 宮野さんがメニューを閉じ、店員を呼ぶボタンを押した。

「しかも、既婚者」

「ホントに!?」

 ここまでくると、ドラマもびっくりの展開だ。

「京本さんが知っていたかは知りませんけど。しかも! その接待の後も関係が続いていて、妊娠発覚と同時に奥さんにもバレちゃったってわけです。で! 当然社長の耳にも入り、性接待だの枕営業だのの騒ぎになったってことらしいですよ」



 ホントにあるんだ……そんなこと。



 私が呆けていると、店員がやって来た。宮野さんはレモンソーダ、私はジンジャーエールを注文する。

「けど、そんなに大事おおごとになってしまったら、課長レベルでどうこうできる問題じゃないでしょ? 相手は社長が出て来てるんだし」

「そう言われたら、そうですよね」

「まさか、課長が指示したとか疑われてたりしませんよね!?」

「まさかっ! さすがにそれは――」

 宮野さんは言いかけて、続く言葉を飲み込んだ。私たちは無言で顔を見合わせた。

 頼んであったチーズタッカルビが届けられて、ハッとした。

「もしそうなら、課長ヤバくないですか?」と、宮野さんが呟く。

「ヤバい……よね」

 智也は出世のために頑張ってきた。

 誰より早く出社し、誰より遅く退社して。休日出勤もザラ。

 それを知っているだけに、自分の事のように胸がザワついた。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

Can't Stop Fall in Love

桧垣森輪
恋愛
社会人1年生の美月には憧れの先輩がいる。兄の親友であり、会社の上司で御曹司の輝翔先輩。自分とは住む世界の違う人だから。これは恋愛感情なんかじゃない。そう思いながらも、心はずっと彼を追いかけていた─── 優しくて紳士的でずっと憧れていた人が、実は意地悪で嫉妬深くて独占欲も強い腹黒王子だったというお話をコメディタッチでお送りしています。【2016年2/18本編完結】 ※アルファポリス エタニティブックスにて書籍化されました。

Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

汐埼ゆたか
恋愛
絶え間なく溢れ出る涙は彼の唇に吸い取られ 慟哭だけが薄暗い部屋に沈んでいく。    その夜、彼女の絶望と悲しみをすくい取ったのは 仕事上でしか接点のない上司だった。 思っていることを口にするのが苦手 地味で大人しい司書 木ノ下 千紗子 (きのした ちさこ) (24)      × 真面目で優しい千紗子の上司 知的で容姿端麗な課長 雨宮 一彰 (あまみや かずあき) (29) 胸を締め付ける切ない想いを 抱えているのはいったいどちらなのか——— 「叫んでも暴れてもいい、全部受け止めるから」 「君が笑っていられるなら、自分の気持ちなんてどうでもいい」 「その可愛い笑顔が戻るなら、俺は何でも出来そうだよ」 真摯でひたむきな愛が、傷付いた心を癒していく。 ********** ►Attention ※他サイトからの転載(2018/11に書き上げたものです) ※表紙は「かんたん表紙メーカー2」様で作りました。 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

無表情いとこの隠れた欲望

春密まつり
恋愛
大学生で21歳の梓は、6歳年上のいとこの雪哉と一緒に暮らすことになった。 小さい頃よく遊んでくれたお兄さんは社会人になりかっこよく成長していて戸惑いがち。 緊張しながらも仲良く暮らせそうだと思った矢先、転んだ拍子にキスをしてしまう。 それから雪哉の態度が変わり――。

処理中です...