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15 女の顔、母親の顔
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しおりを挟むエレベーターが降りて来て、扉が開き、五十代くらいの夫婦が降りた。俺たちが乗り込む。
「結婚してた時は、あんな風に肩を並べて歩く将来なんて、想像も出来なかったな」と、夫婦の後姿を見て、彩が呟く。
「俺とは肩を並べて歩いてるだろ」
「人生ってわからないものよね」
「確かにな」
俺は両親が肩を並べて歩いている姿を見たことがない。
二人はそれぞれに仕事を持っていて、何より大事にしていた。
大人になったから、あれだけ家にいない二人が、どうやって二人の子供を作ったのかが不思議なほど。
「聞いていい?」
「ん?」
「お見合いは……どうなったの?」
「ああ。とりあえず流れたよ。見合いしたところで、最悪の場合は失業の恐れもあるからな」
彩は布団を敷いて別に寝ると言ったけれど、俺は却下した。何もしない、と約束して、彩と一緒にベッドに入った。
「接待は智也の指示だった……とか思われてるの?」
「――どうしてわかった?」
「その方が、相手には都合がいいでしょ。個人を相手にするより会社を相手にした方が、取れるものも多いし、潰し甲斐がある」
「お前、営業より経営に向いてるかもな」と言いながら、顔を横に向けて彩のおでこにキスをした。
「手、出さないんじゃなかったの?」
「そんなこと、言ったか?」
「言った」
「忘れたな」
今度は彼女に覆い被さるように身体を捻って、首筋に顔を埋める。
「別に、千堂に義理立てする理由なんかねーんだよな」
「……二人の年下上司を天秤にかけるような女でいいの?」
俺は顔を上げ、彩を見下ろした。彩もまた、真っ直ぐに俺を見上げている。
「明日には千堂課長とこうしてるかもよ?」
「今、それ言うか?」
「だって……」
彩の言いたいことは、わかる。
一時の感情で抱くのは簡単だけれど、朝目覚めて真っ先に後悔するのはいただけない。
彩は恐らく、俺に一線を引いたように、千堂にもそうしたろう。
とすれば、ここで俺がその線を踏み越えてしまったら、千堂にもそれを認めることになる。
「千堂にも触らせんなよ?」
俺はぼふっとベッドに身体を投げ出した。
「智也のそうゆうところ、結構好きよ」
「千堂にも言ったのか?」
「え?」
「……いや、何でもない」
彩の頭の上に腕を回す。ごく自然の流れのように、彼女の頭が肩の上に乗る。
千堂ともこうして眠ったのだろうか……?
嫉妬なんて、らしくない。
「千堂を断り切れない気持ち、わからなくもないんだよ」と、天井を見上げて言う。
「え?」
「あんな風に……必死になられたら、そりゃほだされるよな」
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