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16 交わる領域
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しおりを挟むなんとなく借りを作るようで気が引けたが、私情を挟んでいる場合ではなかった。
ゴールデンウイーク明け。
俺はまず部長に話をした。すんなりお許しが出た。最初から反対されるとは思っていなかったが。
次に、千堂に話した。いい顔をしないことはわかっていた。
「どうして堀藤さんなんです? 京本さんたちとの確執は知っているじゃないですか」
「だから、だ。感情的になれば、口も軽くなる」
「けど、堀藤さんがまた何を言われるか――」
イラっとした。
彩が京本とモメたのは、千堂の軽率な言動が原因だ。
嫉妬されるのは、当人には不可抗力な問題だとわかっているから、彩は何も言わなかった。ただ、子供や自分を侮辱した京本に怒っただけだ。
だが、俺は彩ほど寛容な人間ではない。
一言言いたい衝動を抑えただけで、自分を褒めてやりたいくらいだ。
『だから言っただろ。自分の言動には責任を持て、と』
「千堂。あ――堀藤は子供じゃない。――つーか俺やお前よりずっと大人だろ。それに、この件は――」
「堀藤さんの提案ですか」
「――そうだ」
俺と彩が連絡を取っていることで、千堂がムキになるのではと、黙っていたかった。
実際、千堂はわかりやすくムッとした。
そんな大人気ない態度に、俺もまたムッとした。表情に出ていたかはわからないが。
これじゃ、千堂と同じじゃねーか。
女に、こんなに執着したことなんて、ない。
厳密には、執着するほど親密になったことがない。
だから、だ。
いい年をして仕事と私情をきっちり分けきれないのは、こういう状況と感情に免疫がないせいだ。
ならば、免疫をつければいい。
「そんなに心配なら、一緒に来ればいい」と、俺は言った。
「え?」
「俺は、堀藤の帰りをデスクで待ってると思ったか?」
俺も、彩の寛容さを見習うことにした。
「お前も一緒に来たらいい」
「……わかりました」と、千堂が言った。
強気な目つきで。
その目つきが、ヤケに気に障った。
「ま、上司としては当然だよな」
言った後で、思った。
寛容とか……無理だ――。
己の器の小ささを知った。
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