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【番外編1】千堂隼の恋
恋の終わりと始まり-5
しおりを挟む「来週から、釧路支社に助っ人に行ってください」
水曜日の午後、俺は彩さんに出張を告げた。
驚いた表情をして、それからグッと歯を食いしばって睨みつけられた。
「どうして私なんですか?」と、彩さんが聞いた。
「他社を見るのも、勉強になりますから」と、俺は答えた。
「彩さんが二週間。その後、風間に交代してもらいますから」
「困ります! そんなに家を空けるわけには――」
「とにかく! これは仕事で、業務命令です。簡単に出来ないなんて言わないで、まずはご家族と話し合ってください。どうしても不可能ならば、対応を考えますから」
俺の断固とした口調に、彩さんは驚いた様子だった。
これくらい言わなければ、彼女は受け入れない。
あとは、真君と亮君に任せるしかない。
俺は、真君にメッセージを送った。
その結果は翌日、すぐにわかった。
「子供たちに何を言ったんですか?」
険しい表情で、彩さんが俺に詰め寄った。
真君からのメッセージで、亮君がうっかり俺の名前を出してしまったことは知っていた。
「子供たちの相談に乗っただけです」
「相談って――! あの子たちは、自分たちの言っていることの意味がわかってないんです! まして、課長に後押しされたら、尚更なんの疑いも――」
「だったら!」
興奮気味の彩さんにつられて、俺も少し声が大きくなる。
「子供たちに心配をかけるような態度を取らなければいいでしょう! あの子たちは、子供ながらにあなたの気持ちを汲んで、溝口さんに会わせてあげたいって思ったんです!」
彩さんが委縮して、目を伏せた。
大声を出してしまったことを、悔いた。
彼女が男の大声にトラウマがあることを知っていたのに。
俺は深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。
「仕事なのは確かです」
「わかって……います」
「溝口さんに、会いたくないんですか?」
「……」
「会って、離れられなくなるのが怖い?」
「…………」
「彩さん、前に言いましたよね。俺と寝たのは衝動だったって」
俺は椅子を引いて、座った。
彩さんにも座るように、言う。
彼女は俺から三メートルほど離れて、腰を下ろした。
「後悔、してますか?」
少し迷ってから、彼女は首を振った。
「なら、もう一度、衝動的になってみませんか?」
「溝口さんとのことは、お互いに納得してのことです。今更――」
「あなたが溝口さんの邪魔になりたくないと思うように、溝口さんだってあなたと子供たちの生活の邪魔をしたくないと思ったのかもしれないでしょう?」
「そんなこと――」
「俺を振ったことに、少しは罪悪感を持ってくれていますか?」
俺はずるい聞き方をした。
彼女が『いいえ』と答えるはずがない。
けれど、こうでも言わなければ、彼女はきっと前に進まない。進めない。
「ゲームをしましょう、彩さん」
「ゲーム……?」
「俺が負けたら、もう口出ししません。代わりに、俺が勝ったら、自分の気持ちに正直になってください」
「……」
沈黙は了承と判断した。
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