楽園 ~きみのいる場所~

深冬 芽以

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2.目標

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 こうして、一日の半分は彼女と本を読んだ。三日もすると、ぎこちなさはあっても本を持つコツや、ページをめくるコツが掴めてきた。

 足も、彼女がやってくれるように、座りっぱなしでもタオルで少し力の入れ具合が変わるだけで、ずっと楽になった。

 食事は、スプーンだけで食べられるものが多かった。

 お義姉さんに言われて、俺は左手でスプーンを持って食べている。時々は落としてしまうが、徐々に慣れてきている。指一本を曲げるのは難しいが、ボールを落とさないように手を丸めていることは出来るようになった。

 退院して十日。

 俺はお義姉さんが買ってくれた黄色いスポンジボールを掌にのせ、軽くだが指を添わせられる程度には、指を曲げられるようになっていた。

「お好み焼きが食いたいな」

「え?」

「お好み焼き」

「いいですよ? 豚玉でいいですか? 色々、入れちゃいます?」

「豚玉で」

「わかりました」

 彼女は毎日買い物に行く。

 行く前に、必ず俺に何を食べたいかを聞く。

 俺は何かしら答えるようにしている。

 この十日、彼女が買い物で出かける以外は、ずっと一緒に居る。

 部屋で好きに過ごしていいと言っても、俺が寝室に行くまで必ず一緒に居て、朝も俺より先に起きている。

 一週間経っても彼女から休みが欲しいと言われないから、俺から言ってみた。が、困った顔をされてしまった。

「お休みだと、出かけなくちゃダメですか?」

 俺の世話をしなくていい、という意味で言ったのだが、彼女は邪魔者扱いされているように感じてしまったのか。

 だが、四六時中俺と一緒に居て、俺を気遣って、ブラブラ街を歩くことも、友達とランチに出かけることもない。

 窮屈な思いをさせているのではないか、と俺は思っていた。

「出かけなくても、俺のことは気にせずにのんびりしてください」

 そう言ったのに、彼女は俺のそばにいた。

 真面目というか、献身的というか。

 彼女は雇い主で義弟である俺を気遣って、職務を全うしているだけだとわかっている。が、こうも甲斐甲斐しく世話をされると、勘違いしそうになる。



 勘違いしてるのは俺だけだけど……。



 彼女は線引きを怠らない。

 敬語は崩さないし、必要以上近寄らない。

 関係性はともかく、同じ世代の女性と長い時間一緒に居て、ここまで他人行儀なのは疲れ始めていた。



 せめて敬語、やめてくんないかな。

 あと、呼び方も。



「明堂さん」と呼ばれるのが、とにかく嫌だった。というか、「明堂」の姓が大っ嫌いだ。

『間宮くん……』

 早坂にそう呼ばれていた頃が懐かしい。



 もう、誰も呼んでくれない――。


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