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2.目標
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しおりを挟むお義姉さんと暮らし始めてから、早坂のことをよく思い出す。雰囲気が似ているからだろうか。とはいえ、もう十五年も前の記憶だ。正確に覚えているわけでもない。
たった一度のキスの後で突然終わってしまった恋だから、美化しすぎている自覚はある。
それに、彼女にとってはいい恋ではなかったはずだ。
『いきなり転校って、あたしたちがイジめたせいだったりする!?』
『まさか。っていうか、間宮にからかわれてるだけだって教えてあげただけじゃん』
『よく言うよ。ブスのくせにチョーシに乗んな、早く別れろ、とか言ってたくせに』
『けど、あれだけ言っても、間宮と別れるって言わなかったよねぇ』
しばらく休んでいた彼女が転校したと知らされた日、クラスの女子がそう話しているのを聞いてしまった。
ムカついてムカついて、それからヘコんだ。
つたないキスに浮かれていたのは俺だけで、彼女はクラスの女子に嫌がらせをされて泣いていたのかもしれない。転校を知らせるのも面倒なくらい、早く離れたくていたのかもしれない。
そんな女じゃねーか……。
真面目で大人しかったけど、自分の意見はハッキリ言えたし、キスの時も同意は得た。俺が嫌いなら、そう言ったはずだ。
なんでこんなに思い出すんだろ……。
理由はわかっている。
あの頃が一番、楽しかった。
あの頃が一番、自分らしくいられた。
思ったより堪えてんだな、怪我……。
動かない指を見つめて、思った。
目標……か。
リハビリをするにあたって、お義姉さんに「目標を決めましょう」と言われた。
簡単な目標を一つずつ達成していくことで、やる気を持続させようというのだ。
とりあえず、さしあたっての目標は『スプーンやフォークを落とさずに食事を終えること』。
意外にも早く達成しつつある。
で、昨日、お義姉さんに次なる目標を聞かれた。
俺は、「考えておきます」と答えた。
トイレや風呂は……とりあえず何とか出来ているしな。
着替え……か?
そう。
あちこち不自由ではあるけれど、『出来ない』ことが多いわけではない。
苦労はするが、自分の尻も拭けるし、頭も洗える。時間はかかるが着替えも出来る。
日常生活で出来なくて困っているとすれば、ボタンをかけられない、外せない、ファスナーを閉じられない、ことくらい。
だから、俺はいつもTシャツにスウェット。
ボタンはハードル高いか?
左手の親指と人差し指を曲げてくっつけようとしてみたが、どうしても七センチほどの距離が縮まらない。
こんなんじゃ、あのボタンも外せない。
不意に。瞼の裏に浮かんだのは、きっちり留められたお義姉さんのシャツのボタン。それから、胸の膨らみ。
だからっ――!
俺は自分の妄想を打ち消した。
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