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4.男としての価値
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しおりを挟む困らせるとわかっているのに、なぜか言わずにはいられなかった。
知っていて欲しかった。
案の定、楽は困った表情のままフリーズしている。
握り締めた彼女の手を撫で、それから指を彼女の指の間に交差させる。嬉しさとか緊張とかで汗ばんでいる気もしたが、離さなかった。離したくなかった。
そのうち、彼女の瞳に薄っすらと涙の幕が張った。
「……迷惑?」
「……」
「大丈夫だよ。不倫しようなんて言ってるわけじゃない。ただ、きみが好きだから、出来ればずっと俺の世話を続けて欲しい、ってことだから」
正直な気持ちだ。
事実、不倫なんて出来る身体ではない。どんなに願っても。
気づけば、車を叩く雨音が弱まっていた。
「私も……ずっとあの家にいたいです」
本人同様、俺の指の間で困惑気味に広げられていた彼女の指が、俺の手を握り返す。
「私も、あの家で、悠久さんと、ずっと一緒に暮らしたいです」
彼女の瞳から涙が零れた。
目尻を伝い、シートに一滴だけ落ちる。
右手が自由なら拭えるのに、と思った。
手を握っただけ。
セックスどころか、ハグもキスもない。
なのに、とても幸せな気持ちになった。
俗に言う『不貞行為』とは伴侶以外の人間との性交渉をいう。
伴侶以外の人間を、伴侶以上に愛してしまうことは……?
考えても仕方がない。
「うん。ずっと、一緒にいよう」
手を握ることが不貞と呼べないことは、確かなのだから。
-----
楽と暮らし始めてちょうど一か月。
俺はリハビリに精を出し、左手はほぼ自由に動かせるようになった。箸こそまだ持てないけれど、食事中にスプーンやフォークを落とすことはなくなった。素早くではないにしても、自在に手首を捻ることが出来る。
三日前から、右手のリハビリも始めた。
スポンジボールを落とさないように握り続けたり、右手でスプーンを持つ練習もしている。
想いを伝えてから、俺と楽の距離が僅かに近づいたと思う。
相変わらず楽の敬語は抜けないけれど、雇用関係から友人関係にはレベルアップできたと思う。いや、友達以上恋人未満、くらいになれているかもしれない。
リハビリと称して彼女に触れることを許されているのは、そういうことだと思っている。
とはいえ、手を握る程度だが。
「高校生の頃の楽って、どんなんだった?」
「え?」
「制服はセーラー? ブレザー?」
「ブレザー……です」
「卒アルとかないの? あ! チーズ――」
「ありません!」
勢いよく言われて、驚いた。手からハンバーグが落ちそうになる。
「え? それ、チーズじゃないの?」と、彼女の目の前のチーズの袋に視線を落とす。
「え? あ、はい。チーズです」
楽がハッとしたようにチーズを袋から出して、皿にのせた。それを、俺の前に置く。
「ありがとう」
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