59 / 182
7.再会
4
しおりを挟む
「俺と付き合ったせいで嫌がらせされてたって知らなくて、守れなくてごめん。一人で我慢させて、ごめん」
楽は眉根を寄せて、涙を堪えるように唇を噛んで、大きく首を振る。
「間宮くん、モテてたから……、私……が彼女じゃ……誰も納得できないのわかってたの。だから……」
俺は彼女の頬にそっと触れた。
熱を帯びて、僅かに湿った肌は柔らかい。
俺の腕の中で声を震わせ、瞳を潤ませる姿が可愛くて、愛おしくて堪らない。
「間宮くんに似合う……女の子になりたかった。堂々と、並んで歩けるようになりたかった。だから――」
「――逆だよ。楽の隣にいて恥ずかしくない男になりたかったのは、俺の方だ。ばあちゃんと母さんにも言われたんだぞ? 『彼女に愛想を尽かされないように、しっかりしなさい』って」
「そんな……」
「好きだよ、楽」
楽の瞼の中に大きな雫が浮かぶ。
「あの頃も、今も、好きだよ」
精一杯笑っているつもりだけれど、ちゃんと笑えているか自信はない。
腕の中の楽が、俺の願望が見せる幻ではないかと、怖くなる。
俺はまだ病院のベッドの上で、手も足も動かなくて、現実から逃げたくて都合のいい夢を見ているのではないかと、思えてくる。
だから、そうではないと実感したかった。
「キスしていい?」
十五年前も、聞いた。
この場所で。
帰り際、楽を抱き締めて。
彼女は恥ずかしそうに視線を泳がせ、それから、小さく頷いた。
そう、今の楽と同じように。
俺はおずおずと顔を寄せ、唇を重ねた。
彼女の唇は柔らかくて、熱を帯びていた。
彼女の頬に触れている手に、生温かい湿り気を感じた。とめどなく流れる楽の涙が指の間に沁み込んでいく。
十五年前、俺は自分がファーストキスじゃないことを悔やんだ。
楽が初めてだったから。
俺も初めてなら良かったと思った。
彼女以外の唇なんて、知らなくて良かったのに。
楽のファーストキスの記憶を美しく残したくて、俺は触れるだけのキスで我慢した。
本当は、もっと深く、濃厚に舌を絡ませ、蕩けさせたかった。が、いきなりそんなことしては嫌われてしまうのではと、冷静に判断した。
なけなしの、理性。
「好きだよ」
格好つけて、慣れた顔して彼女を抱き締めた。
本当は、口から心臓が飛び出そうなほど、緊張していたし舞い上がっていた。
今だって、そうだ。
十五年前のあの瞬間に戻りたくて、再現なんてしてみたけれど、実のところは息をするのもままならずに、唇を離してしまっただけ。
それを誤魔化すように彼女を抱き締めただけ。
「私も、好き」
十五年前は聞けなかった。
「あの頃も、今も、好きだよ」
ようやく、時間が動き出した。
それを確かめるために、俺はもう一度彼女に口づけた。
温かい。
夢じゃない。
俺は今、確かに楽に触れている――。
楽は眉根を寄せて、涙を堪えるように唇を噛んで、大きく首を振る。
「間宮くん、モテてたから……、私……が彼女じゃ……誰も納得できないのわかってたの。だから……」
俺は彼女の頬にそっと触れた。
熱を帯びて、僅かに湿った肌は柔らかい。
俺の腕の中で声を震わせ、瞳を潤ませる姿が可愛くて、愛おしくて堪らない。
「間宮くんに似合う……女の子になりたかった。堂々と、並んで歩けるようになりたかった。だから――」
「――逆だよ。楽の隣にいて恥ずかしくない男になりたかったのは、俺の方だ。ばあちゃんと母さんにも言われたんだぞ? 『彼女に愛想を尽かされないように、しっかりしなさい』って」
「そんな……」
「好きだよ、楽」
楽の瞼の中に大きな雫が浮かぶ。
「あの頃も、今も、好きだよ」
精一杯笑っているつもりだけれど、ちゃんと笑えているか自信はない。
腕の中の楽が、俺の願望が見せる幻ではないかと、怖くなる。
俺はまだ病院のベッドの上で、手も足も動かなくて、現実から逃げたくて都合のいい夢を見ているのではないかと、思えてくる。
だから、そうではないと実感したかった。
「キスしていい?」
十五年前も、聞いた。
この場所で。
帰り際、楽を抱き締めて。
彼女は恥ずかしそうに視線を泳がせ、それから、小さく頷いた。
そう、今の楽と同じように。
俺はおずおずと顔を寄せ、唇を重ねた。
彼女の唇は柔らかくて、熱を帯びていた。
彼女の頬に触れている手に、生温かい湿り気を感じた。とめどなく流れる楽の涙が指の間に沁み込んでいく。
十五年前、俺は自分がファーストキスじゃないことを悔やんだ。
楽が初めてだったから。
俺も初めてなら良かったと思った。
彼女以外の唇なんて、知らなくて良かったのに。
楽のファーストキスの記憶を美しく残したくて、俺は触れるだけのキスで我慢した。
本当は、もっと深く、濃厚に舌を絡ませ、蕩けさせたかった。が、いきなりそんなことしては嫌われてしまうのではと、冷静に判断した。
なけなしの、理性。
「好きだよ」
格好つけて、慣れた顔して彼女を抱き締めた。
本当は、口から心臓が飛び出そうなほど、緊張していたし舞い上がっていた。
今だって、そうだ。
十五年前のあの瞬間に戻りたくて、再現なんてしてみたけれど、実のところは息をするのもままならずに、唇を離してしまっただけ。
それを誤魔化すように彼女を抱き締めただけ。
「私も、好き」
十五年前は聞けなかった。
「あの頃も、今も、好きだよ」
ようやく、時間が動き出した。
それを確かめるために、俺はもう一度彼女に口づけた。
温かい。
夢じゃない。
俺は今、確かに楽に触れている――。
1
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる