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11.悪魔のシナリオ
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しおりを挟む「大方、俺に子供がいないから、自分の子供に後継者の椅子が回ってくるかもとでも思ったんだろう。あのバカ女の考えそうなことだ。ああ、失礼。あなたの妹さんですよね。母親が違うとはいえ」
央の言葉に、楽は俯いてしまった。
「とにかく、座らないか」
央が、ダイニングテーブルを見る。
俺と楽のコーヒーカップしか載っていない。何を思ったのか、俺のカップが置いてある場所に座った。
「やっぱり、コーヒーをお持ちします。すぐ、なので――」
「――では、牛乳を少しだけお願いします」
「はい」
初対面の時の、三十歳にして髪はオールバック、インテリ眼鏡をかけて、ブランドスーツを着て足を組み、カフェオレをすする央をよく覚えている。
いつも父親の一番近くにいて、立ち振る舞いも口調もそっくり。威圧的で、他人を見下していて、いつも眉間に皺を寄せているのに、甘党。
八つも年上だが、初対面で「間違っても兄などと呼ぶな」と言われ、ムカついたから呼び捨てにしている。
「楽。カフェオレにしてやって」
「え?」
「この人、甘党なんだよ」と言いながら、俺は自分のカップを引き寄せ、楽の隣の席に座った。
「で? 親父に言われてきたんだろ。俺を出社させろって」
「ああ」
「社長のくせに、お遣いかよ」
「いい迷惑だな」
「だったら――」
「――俺は社長を辞める」
「……はっ!?」
無表情で、淡々と爆弾発言を口にした央は、窮屈そうに長い足を組む。
「当分は副社長が社長代理を務める。お前の復帰後、適当な時機を見て副社長が社長に、お前が副社長に就任だ」
タイミングがいいのか悪いのか、バリスタのスイッチが押され、機械音と共にコーヒーの香ばしい香りが漂う。
とんでもないことを言われた。
央が辞めて、俺が副社長……?
音がやみ、俺はカウンターから楽に目を向けた。彼女もまた、俺を見ていた。
心配そうに、少し、泣きそうにも見える。
「楽」
名前を呼ぶ。
彼女は少しだけ唇を噛み、カップを持って台所から出て来た。
カップを央の前に置き、俺の隣に座る。
央はカフェオレを一口飲み、腕を組んだ。
俺はテーブルの下で、楽の手を握った。彼女も、握り返してくれた。
「辞める理由は?」
「父親が絶対に認めない女と結婚するためだ」
「……は?」
予想外の理由だった。
央に限って、恋愛絡みはないと勝手に思っていたから。
彼は常々、自分は会社に有益な結婚をするが、今はまだその時ではないと言っていた。
「俺は会社を辞め、明堂家との縁を切って、女を選ぶ。だが、お前は?」
「え?」
「俺と違ってお前には妻がいる。会社を辞めようと親父と縁を切ろうと、その人と一緒にはなれない」
「そんなこと……っ」
言われなくてもわかっている。
「会社に戻り、家に戻り、清算しろ」
央はカップから立ち上る湯気に息を吹きかけ、口をつけた。
「離婚しようにも、妻が妊娠中では簡単ではないだろう。休職中で、妻以外の女性と一緒に暮らしている現状では、尚更」
「だからって――」
「――しかも、彼女に金を渡している」
「え?」
「愛人以外の何物でもないな」
俺の手から、楽の手がするりと抜け落ちる。
央の言うことは、いちいち尤もだ。
だからこそ、堂々と楽の隣にいられるように、調停を申し立てた。
なのに――!
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