楽園 ~きみのいる場所~

深冬 芽以

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15.自分勝手な愛

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 ピンポイントで急所を射抜かれたように、一瞬で身体が熱くなり、呼吸を忘れた。

「会社を継ぎ、萌花の腹の子を後継者に育てるのなら、萌花の姉を手放さずに済む。が、拒むなら、受け入れるまで続けるだけだ」

「萌花や征子さんがそんなことを許すはず――」

「――二人がどう言おうが、関係ない」

 その言葉は本当だろう。

 父親この男がそうすると決めたら、そうするしかない。

 俺が明堂家に籍を移した時もそうだった。

 征子さんが猛反対しても、一切聞く耳を持たず、二人の兄は反対するだけ無駄だと無関心を貫いた。



 同じように、母さんのことも愛人として征子さんに認めさせたのだろうか。



「仮に、お前が会社を辞め、萌花と離婚し、萌花の姉と結婚できたとして、どうやって生きていく? 萌花との離婚は簡単ではないし、裁判などになればマスコミも騒ぐ。萌花の姉は妹の夫を奪ったと後ろ指さされながらも、お前のそばを離れずに生き続けられるか?」

「……」

「お前自身もそうだ。スキャンダルにまみれたお前を雇う会社があると思うか? 少なくとも、私の息のかかった企業は不可能だ。夫婦でアルバイトでもしながらその日暮らしをするか?」

「そんなこと――」

「――試してみるか? 身をもって現実を知り、別れてから後悔しても会社には戻さんぞ。私とお前の母親は、試すまでもなかったがな」



 母さんは父親こいつの何が良くて愛人なんか――!



「妻にはしてやれなかったが、不自由のない暮らしはさせてやれた。お前の母親は最期まで俺に礼を言っていたな」

「なんで、礼なんか――」

 すっと父親の手が上がり、後ろの男たちが背後から横に移動してきた。

 部屋に連れ戻されると思った瞬間、俺は考えるより先に言葉を発していた。

「言う通りにする」

 父親が手を下げ、身体ごと俺に向いた。

「言う通り、とは?」

 ムカつくのに、そんなことはどうでもいいと思えるほど、疲弊していた。

「副社長として会社に戻り、萌花との離婚も諦める」

 楽に会いたい。

 その一心だった。

「その代わり、楽とは別れない。何があっても、だ。子供ができたら認知もする」

「……」

 父親は黙って俺を見据えたまま何か考えているようだったが、ほんの数秒で結論が出た。

「念書を用意する」

 翌日。

 俺は念書に署名と拇印を残し、用意されたスーツに着替え、副社長室へと向かった。
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