楽園 ~きみのいる場所~

深冬 芽以

文字の大きさ
137 / 182
15.自分勝手な愛

しおりを挟む



『楽は明堂さんを待っていますよ』

 俺の不安を見透かすように、電話の相手が俺だとわかると、藤ヶ谷さんは言った。

『副社長に就任したと聞きましたが、問題は片付いたのでしょうか?』

 業界は違えど、さすが不動産会社大手の藤ヶ谷都市開発の次期社長。情報が早い。

 いや、明堂貿易うちを探っていたのかもしれない。

「とりあえず、自由の身にはなりました」と、俺は返事を誤魔化す言い方をした。

 俺が自由になるために父親と取引をした内容は、藤ヶ谷さんの言う『問題が片付いた』とは程遠い。

「楽の居場所を教えてください」

『……』

 沈黙に嫌な汗が滲む。

『楽から連絡をさせます。この番号でいいですか?』

「藤ヶ谷さん!」

『楽とあなたの問題に口を挟むつもりはありませんが、俺にとって一番大切なのは楽の幸せです。楽が少しでも不安を抱えた状態で、あなたの元に帰すことは出来ません』

 静かで冷ややかな声に、思わず唾を飲む。

「俺は楽を愛しています」

『わかっています。楽があなたを愛していることも。ですが、今のあなたはそれをカタチには出来ないでしょう?』

 彼の言う『カタチ』の意味に、俺は歯を食いしばった。

 悔しい。

 それでも、楽に会いたい。

「楽に伝えてください。連絡を待っている、と」

『……わかりました』

 今度は俺が楽を待つ番。

 明堂家を出た俺は、間宮の家に帰った。

 俺が楽と消えてすぐに、萌花は実家に身を寄せた。悪阻が落ち着くなり、遊び出したのだ。

 腹の孫に何かあってはと、父親が萌花の父親に連絡をしたという。

 俺とはだいぶ状況が違うが、萌花も軟禁状態にあった。

 だからと言って、萌花と暮らしたマンションに帰る気にはなれなかった。

 マンションから荷物を運び、間宮の家に腰を落ち着けた。

 俺には、三人の秘書が配属された。

 重役には専属秘書が一人と、兼務秘書が一人は常識だが、三人目は俺の監視を目的とする、表向きは秘書で本業はボディーガード。

 だが、父親との約束さえ反故にしなければ、行動に制限はない。

 だから、今すぐにでも楽を探しに飛び出したい気持ちを押さえ、仕事に励んだ。

 楽のことが頭から離れることはないが、仕事自体はやりがいがある。

 俺は、央が辞めたことで下がった株価を戻すべく、奮闘した。

 それでも、三日と空けずに藤ヶ谷さんに電話しては、楽に会いたいと訴えた。

 なぜ、恋人に会うのに、恋人の元夫に懇願せねばならないのかとも思うが、そこは耐えるしかない。

 そうして一カ月が過ぎた頃の金曜日。

 社用車で間宮の家に帰ると、ボディーガードが車から降りるなと言って、自分は飛び出して行った。

 何事かと窓の外に目を向けた瞬間、俺は車外に飛び出していた。

「楽!」

 屈強なボディーガードに睨まれていたのは、間違いなく楽だった。

「悠久」

 手に大きめのボストンバッグを持った彼女が、薄暗い中でも俺の声と姿に安堵の表情を浮かべたのがわかる。

 ボディーガードは何も言わず、第一秘書の乗る車に戻った。

「楽!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

清掃員と僕の密やかな情状

MisakiNonagase
恋愛
都心のオフィスビルで働く会社員の26歳・高城蓮(たかぎれん)。彼の無機質な日常に唯一の彩りを与えていたのは、夕方から現れる70歳の清掃員・山科和子だった。 青い作業服に身を包み、黙々と床を磨く彼女を、蓮は「気さくなおばあちゃん」だと思っていた。あの日、立ち飲み屋で私服姿の彼女と再会するまでは――。 肉じゃがの甘い湯気、溶けゆく氷の音、そして重ねた肌の温もり。 44歳の年齢差を超え、孤独を分かち合った二人が辿り着いた「愛の形」とは。これは、一人の青年が境界線の向こう側で教わった、残酷なまでに美しい人生の記録。

処理中です...