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15.自分勝手な愛
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しおりを挟む『楽は明堂さんを待っていますよ』
俺の不安を見透かすように、電話の相手が俺だとわかると、藤ヶ谷さんは言った。
『副社長に就任したと聞きましたが、問題は片付いたのでしょうか?』
業界は違えど、さすが不動産会社大手の藤ヶ谷都市開発の次期社長。情報が早い。
いや、明堂貿易を探っていたのかもしれない。
「とりあえず、自由の身にはなりました」と、俺は返事を誤魔化す言い方をした。
俺が自由になるために父親と取引をした内容は、藤ヶ谷さんの言う『問題が片付いた』とは程遠い。
「楽の居場所を教えてください」
『……』
沈黙に嫌な汗が滲む。
『楽から連絡をさせます。この番号でいいですか?』
「藤ヶ谷さん!」
『楽とあなたの問題に口を挟むつもりはありませんが、俺にとって一番大切なのは楽の幸せです。楽が少しでも不安を抱えた状態で、あなたの元に帰すことは出来ません』
静かで冷ややかな声に、思わず唾を飲む。
「俺は楽を愛しています」
『わかっています。楽があなたを愛していることも。ですが、今のあなたはそれをカタチには出来ないでしょう?』
彼の言う『カタチ』の意味に、俺は歯を食いしばった。
悔しい。
それでも、楽に会いたい。
「楽に伝えてください。連絡を待っている、と」
『……わかりました』
今度は俺が楽を待つ番。
明堂家を出た俺は、間宮の家に帰った。
俺が楽と消えてすぐに、萌花は実家に身を寄せた。悪阻が落ち着くなり、遊び出したのだ。
腹の孫に何かあってはと、父親が萌花の父親に連絡をしたという。
俺とはだいぶ状況が違うが、萌花も軟禁状態にあった。
だからと言って、萌花と暮らしたマンションに帰る気にはなれなかった。
マンションから荷物を運び、間宮の家に腰を落ち着けた。
俺には、三人の秘書が配属された。
重役には専属秘書が一人と、兼務秘書が一人は常識だが、三人目は俺の監視を目的とする、表向きは秘書で本業はボディーガード。
だが、父親との約束さえ反故にしなければ、行動に制限はない。
だから、今すぐにでも楽を探しに飛び出したい気持ちを押さえ、仕事に励んだ。
楽のことが頭から離れることはないが、仕事自体はやりがいがある。
俺は、央が辞めたことで下がった株価を戻すべく、奮闘した。
それでも、三日と空けずに藤ヶ谷さんに電話しては、楽に会いたいと訴えた。
なぜ、恋人に会うのに、恋人の元夫に懇願せねばならないのかとも思うが、そこは耐えるしかない。
そうして一カ月が過ぎた頃の金曜日。
社用車で間宮の家に帰ると、ボディーガードが車から降りるなと言って、自分は飛び出して行った。
何事かと窓の外に目を向けた瞬間、俺は車外に飛び出していた。
「楽!」
屈強なボディーガードに睨まれていたのは、間違いなく楽だった。
「悠久」
手に大きめのボストンバッグを持った彼女が、薄暗い中でも俺の声と姿に安堵の表情を浮かべたのがわかる。
ボディーガードは何も言わず、第一秘書の乗る車に戻った。
「楽!」
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