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16.別れ、新しい出会い
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しおりを挟む『きみの覚悟を聞きたい』
突然現れた見ず知らずの男性からの伝言。
男性は、悠久のお父様が雇った調査員だった。
悠久の様子を聞くと、彼が身体的な苦痛を与えられているわけではないと知らされた。
悠久と離れて十日ほどが過ぎた。
修平さんが手配してくれて、私はおばあちゃんの遺産の一部を受け取り、北海道内を旅していた。
といっても、観光するわけではない。
ただ、私の父親に見つからないように、居場所を転々と移動しているだけ。
修平さんにだけ、居場所を伝えていた。
一度、修平さんが浩一くんと一緒に会いに来てくれた。
私が浩一くんと会ったのは二年前に二度ほどだったが、随分と成長した。
突然知らない家に連れて来られて、知らない男の人を本当の父親だと紹介され、あの頃の浩一くんは部屋の隅で泣いていた。
まだ、小学二年生で、父親だと思っていた男性に追い出されて、転校までした。
驚きと不安でいっぱいだったろう。
それでも、母親の前ではけっして泣かなかった。
浩一くんの母親の目を盗んで飴をあげたら、涙を拭ってお礼を言われたことを覚えている。
母親から私のことは聞いているだろうから、普通に接してくれるか不安だったけれど、礼儀正しく挨拶をしてくれて、私を『楽さん』と呼んでくれた。
三人で食事をした。
その二日後、悠久のお父様から接触があった。
私は、悠久のお父様――明堂さんにお会いすることにした。
彼の言う『覚悟』がなにかもそうだけれど、悠久のことも詳しく知りたかった。
悠久が与えられた一室に軟禁状態にあること、スマホは与えられたままだけれど、彼の意思で使用していないこと、食事などに不自由はしていないことを聞いて安心した。
「きみの望みはなんだ?」
眉間に深い皺を刻み、明堂さんは聞いた。
私が滞在している旅館の、特別室は居間だけで二十畳もあり、窓の外は一面の青。
バルコニーが湖に突き出すように設置されているから、湖の上に立っているような錯覚すらもてる。
藤ヶ谷家も裕福で、金銭感覚が庶民とは大きくズレていたけれど、たった小一時間ほど私と話すためだけにこんないい部屋を取るなんて、信じられなかった。
だが、今の私に特別室の豪華さや、景色を眺める余裕などない。
「望み……ですか?」
私と明堂さんは、分厚い艶のある木のテーブルを挟んで、向かい合って座っていた。
おばあちゃんの家にあった座卓と同じ素材に見える。もしそうなら、五十万はくだらないだろう。
汚したり傷をつけたらと思うと、目の前のお茶にも手を出せなかった。
「きみと悠久は、同じ高校に通っていたことがあるな」
「はい」
全て調査済みだとわかり、私は素直に認めた。
そうでなくても、こんな風に嫌悪を露わに睨まれたら、適当に誤魔化すなんて出来ないけれど。
「十年以上も経って悠久に近づいた目的は?」
「お役に……たちたくて――」
「――悠久の結婚式の時には名乗りもしなかったのにか?」
「それは……」
尋問だ。
不倫なんてしている私が悪いのは事実だけれど、父親と言えども悠久を苦しめる明堂さんに、申し訳なさは感じなかった。
そんな自分に驚いた。
悠久と再会し、愛し合い、引き離されて、私は随分と逞しく、太々しくなったようだ。
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