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16.別れ、新しい出会い
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しおりを挟む「金が欲しいか」
「いいえ」
「では、復讐か?」
「復讐?」
「自分と母親を苦しめた近江家への復讐か? 腹違いとはいえ妹の旦那と不倫などと、汚らわしいと――」
「――妹の旦那でなければ良いと?」
「なに!?」
呼びだされた時は、怖かった。
何を言われるのだろうと、何を言われても仕方がないと思った。
けれど、こうして対峙して、明堂さんの言葉を聞いていると、恐れは消えた。
代わりに湧き上がってくるのは、強い嫌悪と憎悪。
「悠久さんが事故に遭わなければ、名乗ることはありませんでした。事故に遭った後でも、萌花が妻として彼をしっかり支えていれば、名乗ったりしなかった。家政婦として一緒に暮らし始めた後も、萌花やご家族からのお見舞いなり、電話なりがあれば、名乗ることはなかったはずです。彼が! 孤独でなければ寄り添いたいなどとは思わなかった」
はぁ、と肩を落として息を吐く。
本当に。
最初は本当に、ただ、悠久のリハビリの助けになれたらと思っただけ。
名乗るつもりも、想いを告げる気もなかった。
結果としてそうしたのは自分の意思だし、それを他人のせいにする気はないけれど、それでも、やはりそうさせた一因は萌花や明堂さんたち家族にもある。
確かに、私、汚いな……。
「一般的に言う家族の関係性と違うことについては否定しないが、それは他人が口出しすることではない。悠久を迎えてから大分経つというのに、未だに馴染もうとしない悠久にも問題は――」
「――悠久さんの名前を付けたのはどなたですか?」
「……なに?」
「悠久さんの名前を付けたのはお母様ですか? 明堂さんですか?」
「なにを――」
「――明堂さんは悠久さんを憎んでいるのですか?」
目上の人間への態度として失礼なのはわかっているけれど、止められなかった。
「悠久さんのお母様から頼まれて、仕方なく養子に迎えたんですか? 本当はそうしたくなかったんですか?」
明堂さんは、口はギュッと結んだままだけれど、目を見開いていた。
会うのは二度目だけれど、きっと初対面の時の印象と違うから驚いているのだろう。
私自身でさえ、驚いている。
父親や萌花の母親、萌花、修平さんのお義母さまに何を言われても言い返すことも出来なかったのに。
「もし、そうなら、悠久さんを解放してください。彼はもう十分苦しんで――」
「――我が子を憎む親などいない」
低く、穏やかな声にハッとした。
明堂さんは冷めたお茶を一口すすり、私を見た。
眉間の皺が消えている。
それどころか、私を見ているようでどこか遠くに思いを馳せているように虚ろにも見える。
「悠久の母親――幾久が妊娠したとわかった時、私は妻に離婚を申し出た。だが、妻も幾久もそれを拒んだ。結局、離婚しないまま悠久が生まれた。悠久の名前は、幾久の一文字を取って私がつけたものだ。毎月の養育費と、月に一度程度会いに行く生活が何年か続いたが、ある日突然、幾久に別れを告げられた。住まわせていたマンションを出て実家に帰り、私は会いに行くことも叶わなくなった」
悠久が生まれた時、父親はそばにいた……?
悠久も知らないことだと思う。
彼は、お母様が病気になって初めて父親の存在を知ったと言っていた。
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