154 / 182
17.愛を取り戻すため
4
しおりを挟む
封筒の中に入っていたのは、六枚の写真と、A4用紙が二枚。
全ての写真には、要が写っている。三枚には萌花も。
腕を組んで歩いていたり、向かい合って食事をしていたり、ホテルの一室に入って行ったり。
どの写真も、誰が見ても仲のいい恋人同士にしか見えない。
萌花と違う女と抱き合っているもの、見るからに怪しげな男と飲んでいるものもある。
A4用紙は、要の行動を文書で報告したもの。
要と萌花の写真は、楽が撮影したものと、調査会社に頼んで入手してもらったマンションの防犯カメラの映像など。他は調査会社の結果報告書に添えられていたもの。
「萌花の腹の子は、要さんの子だ」
「この写真だけでそれを決めつけるのは、浅はかでは――」
「――生まれてしまったら、戸籍上は俺の子になります。たとえ、血が繋がったあなたの孫であっても」
「――!!」
明堂家の女主人らしく、征子さんはどんな時も表情を崩さない。
視線や言葉では感情を隠さないが、眉をひそめて顎に皺を寄せるほどの形相を見たことはない。
いや、一度だけあった。
初めて明堂家に行った日。
母親から明堂剛健を父親だと紹介され、そのまま明堂家に連れて来られた。
父親の妻と二人の息子の前に立たされ、突然養子縁組を告げられた時。
俺は征子さんの般若のごとき形相にゾッとした。
だが、その時限りだ。
俺を見る目に憎悪の炎が見えても、矢のように棘のある言葉を浴びせられても、表情を崩すことはなかった。
その征子さんが、唇を震わせている。
頬も、瞼も。
息子と義理の息子の嫁が寄り添う写真を握り潰し、そのままテーブルに叩きつけた。
さっさと、こうしていれば良かった。
俺の中に征子さんと結託する考えがなかったのは、ちっぽけなプライドから。
だが、それすらも捨ててしまえば、俺の自由は割と簡単に手に入ると気づいたのは、藤ヶ谷さんのお陰かもしれない。
敵の敵は味方……だな。
「央さんが家を出てしまった今、あなたに残されているのは要さんだけだ。萌花の子供が要さんの子だと証明出来れば、会長も要さんを後継者として認めるかもしれません」
「証明……」
「俺は明堂家を出たい。あなたは明堂家を息子に継がせたい。利害は一致しているでしょう?」
俺の言葉に、征子さんは一瞬で表情を戻した。
さすがだ。
何事もなかったかのように、テーブルの上の写真と書類を封筒に戻し、それを手に立ち上がった。
「明日、連絡します」
「お待ちしています」
一人になった部屋で、俺は一杯だけビールを飲んだ。
楽を失って以来、初めて美味いと感じた。
全ての写真には、要が写っている。三枚には萌花も。
腕を組んで歩いていたり、向かい合って食事をしていたり、ホテルの一室に入って行ったり。
どの写真も、誰が見ても仲のいい恋人同士にしか見えない。
萌花と違う女と抱き合っているもの、見るからに怪しげな男と飲んでいるものもある。
A4用紙は、要の行動を文書で報告したもの。
要と萌花の写真は、楽が撮影したものと、調査会社に頼んで入手してもらったマンションの防犯カメラの映像など。他は調査会社の結果報告書に添えられていたもの。
「萌花の腹の子は、要さんの子だ」
「この写真だけでそれを決めつけるのは、浅はかでは――」
「――生まれてしまったら、戸籍上は俺の子になります。たとえ、血が繋がったあなたの孫であっても」
「――!!」
明堂家の女主人らしく、征子さんはどんな時も表情を崩さない。
視線や言葉では感情を隠さないが、眉をひそめて顎に皺を寄せるほどの形相を見たことはない。
いや、一度だけあった。
初めて明堂家に行った日。
母親から明堂剛健を父親だと紹介され、そのまま明堂家に連れて来られた。
父親の妻と二人の息子の前に立たされ、突然養子縁組を告げられた時。
俺は征子さんの般若のごとき形相にゾッとした。
だが、その時限りだ。
俺を見る目に憎悪の炎が見えても、矢のように棘のある言葉を浴びせられても、表情を崩すことはなかった。
その征子さんが、唇を震わせている。
頬も、瞼も。
息子と義理の息子の嫁が寄り添う写真を握り潰し、そのままテーブルに叩きつけた。
さっさと、こうしていれば良かった。
俺の中に征子さんと結託する考えがなかったのは、ちっぽけなプライドから。
だが、それすらも捨ててしまえば、俺の自由は割と簡単に手に入ると気づいたのは、藤ヶ谷さんのお陰かもしれない。
敵の敵は味方……だな。
「央さんが家を出てしまった今、あなたに残されているのは要さんだけだ。萌花の子供が要さんの子だと証明出来れば、会長も要さんを後継者として認めるかもしれません」
「証明……」
「俺は明堂家を出たい。あなたは明堂家を息子に継がせたい。利害は一致しているでしょう?」
俺の言葉に、征子さんは一瞬で表情を戻した。
さすがだ。
何事もなかったかのように、テーブルの上の写真と書類を封筒に戻し、それを手に立ち上がった。
「明日、連絡します」
「お待ちしています」
一人になった部屋で、俺は一杯だけビールを飲んだ。
楽を失って以来、初めて美味いと感じた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる