楽園 ~きみのいる場所~

深冬 芽以

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17.愛を取り戻すため

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 母親の演説も虚しく、当の要が安堵の表情を浮かべたのを、俺は見逃さなかった。

 彼を挟んで座る二人の女性は、焦りの表情。

「なぜです!? そもそも、悠久さんに継がせようとしたのは、子供ができたからでしょう? 要は結婚する気はないと言っていたから仕方がありません。けれど、実際には、もうじき生まれるのは要の子です。それとも! 萌花の姉に悠久さんの子を産ませるおつもりですか!? そんなことをしたら、それこそ明堂家の恥――」

「――悠久!」

「はい」

 唐突に名を呼ばれ、俺は思わず背を伸ばして返事をした。条件反射だ。

「離婚届は持っているか」

「はい」

「今すぐに提出しろ」

「え?」

「行け!」

 わけが分からないまま立ち上がると、征子さんも立ち上がった。

「要に継がせない理由を仰ってください! そんなにあの女が大切ですか! あの女の息子が!!」

 悲鳴のような叫び。

 親父以外の全員が目を丸くして当主夫人を見ている。

 俺も、ドアの三歩手前で振り返ってしまった。

「愛人の子などに、明堂貿易は渡しません! 私《わたくし》が許しません!」

「ならば、央に継がせる。央、お前の妻を認める。戻って来い」

「なっ――! 愛人の子の次は犯罪者の嫁ですか! そんなに要に継がせたくないのですか!! なぜ――」



「――私の子ではないからな」





 え――――?



 耳を疑った。

 全員が。

 それを知ってか、親父がもう一度言った。

「要が私の子ではないと、私が気づいてないとでも思ったか」

 征子さんがずるずると座り込む。

「要を後継者になどと欲を出さなければ、墓の中まで持って行ったものを」

「……誰のせいですか! あなたがあの女と付き合い始めなければ――」

「――要の籍を抜く」

「なっ――」

「二度と、要を後継者になどと画策せんようにな」

「は、話が違うじゃない!」

 突然立ち上がったのは、萌花。

「社長夫人にしてくれるって言うから離婚届にサインしたのよ! これじゃあ……、ただのバツイチ子持ちじゃない! 私はどうなるのよ!」

 俺が離婚届を提出したら、萌花はあれほど蔑んだ楽の母親と同じ境遇におかれる。

 楽の母親のように、子供に精いっぱいの愛情を注いで育てられるとは思えないが。

「悠久! 離婚届、出したりしないで。ごめんなさい。私が間違ってた。寂しいからって、裏切るとか。……お願い。二度と裏切らないから。離婚しないで。お願い! 私たち……夫婦でしょう?」

 オスカーも狙えそうな迫真の演技。

 瞳を潤ませ、声を震わせ、両手で腹を擦る。

「実の父親がいるんだ。俺にすがる意味がわからない」

「どうせ! 私と離婚したって楽とは結婚なんて出来ないんだから! パパが許すはずないもの!! 離婚しないでくれたら、愛人くらい目を瞑るから――」

「――楽を愛人になんかしない」

 萌花は、言ってはいけないことを言った。

 お陰で、わずかな罪悪感も拭い去って走り出せた。

 背後で萌花の喚く声が響いていたが、俺は一度も振り返らずに区役所に走った。

 無事に離婚届を提出した数分後。

 央からの電話で、萌花が病院に運ばれたと知った。
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