楽園 ~きみのいる場所~

深冬 芽以

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19.楽園

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「――それから、ひかりちゃんはあまり大泣きしない子なんだって。いつも先に泣き出すのはあかりちゃんで、ひかりちゃんはつられて泣くんだって。まだ生まれて三日なのに、もうそんなことがわかっちゃうなんて、母親ってすごいね」

 いつものように悠久の胸に手を当てて話しかける。

「私は大丈夫かな……」

 眠る悠久が不安にならないような話をしなければと思うのに、つい本音が漏れてしまう。ついでに涙まで。

 私の不安を察したのか、お腹がポコンと蹴られる。

「ごめんね、大丈夫だよ」と言いながら、片手でお腹を撫でる。

 悠久の胸に置いた掌に強い振動を感じてハッとした。

「悠久も慰めてくれるの?」

 聞こえているとはいえ、それに反応して鼓動に強弱や速度の変化などあるはずはないかもしれないが、気のせいでも悠久が私の声に応えてくれていると思うだけで嬉しい。

「キス……してい?」

 強く早い鼓動は、悠久のものか私のものか。

 呼吸が安定している悠久は、点滴やモニターには繋がれているけれど、酸素マスクはしていない。

 感触があるかわからなくて、言葉にした。

 それから、そっと彼に口づける。

 唇は温かくて、乾いていた。

 舌先で彼の唇に沿う。

 唇を離して目を開ける。

 悠久の目は閉じられたまま。

 無意識に溢れた涙が垂直に落ちて、彼の頬を濡らした。

「ねぇ、悠久。意識下そこに私はいる?」

 もう一度口づけようと目を閉じた時、コンコンとドアがノックされた。

 ハッとして体を起こし、振り返る。

 私が「はい、どうぞ」と言うと、ドアがゆっくりとスライドされた。

「修平さん……」

「やあ、楽」

 修平さんだった。

 手には果物の籠。

「どうして……」

 修平さんとは、浩一くんも一緒に味噌ラーメンを食べに行って以来、会っていなかった。

 おじいさんの診察を受けて妊娠が確かなものとなった後、私は修平さんに妊娠を告げ、「浩一くんが期待したり誤解したりしないように距離を置きたい」を言った。

 私と修平さんは元夫婦で、互いに残る情から連絡を取り合っているだけにしても、浩一くんにそれを理解はできないだろう。

 私自身、自分のことで精一杯になるのも目に見えていた。

 ただ、悠久が空港で倒れた時、スマホの通話履歴から修平さんにも連絡が入り、安否を気遣う電話が一度だけあった。

 私がショックで寝込んでいる間のことで、みちるさんが命に別条はないと言ってくれたと聞いた。

「元気かい?」

 修平さんはこれまでと変わらない、穏やかの微笑みで聞いた。

「はい」と、私は答えた。

「彼は眠ったまま?」

 修平さんの視線が私の背後に向けられる。

 私は身体を捻って悠久を見た。

「央さんに容態を聞いてね」

「そうだったんですね。わざわざありがとうございます。あ、椅子を――」

「――ああ、いいんだ。すぐにお暇するよ」

 そう言って、修平さんは果物の籠を私に差し出す。

「ありがとうございます。でも、悠久は――」

「――これはきみに。重いから、後できみの部屋まで持って行くよ」

「え?」

 部屋、とはアパートのことだろうか。

「話があるんだ」
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