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19.楽園
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しおりを挟むドキッとした。
長く一緒にいたけれど、見たことのない表情で見つめられたから。
男女の情に疎い私でも、彼が私をどんな想いで見つめているのかわかる。
なぜなら、私を見つめる悠久の表情にどこか似ているから。
真剣だけれど、瞳の奥が血走っているような。私の心の奥の奥を見透かすような。
ベッドで私を見下ろす悠久と同じ――。
「お話……ならここでお聞きします」
私は両手でお腹を抱えて、言った。
「子供は……順調かい?」
「え? あ、はい」
「座りなさい。立っているのはつらいだろう?」
「大丈夫です」
「性別はわかっているの?」
「いえ。聞かないことにしたんです」
「そうか。楽しみだね」
見慣れた、穏やかな微笑み。
けれど、今までは感じなかった彼の『男』の匂いにわずかな不快感を持つ。
「楽」
じっと見つめられ、胸の奥でじわっと鈍い痛みというか、重みを感じる。
修平さんもきっと、私が何かを感じ取っているとわかっている。
彼はいつも、私の些細な表情や声色の変化に気づいてくれたから。
それでも、修平さんは視線を逸らさず、ゆっくりと唇を開いた。
私に心構えをする時間を与えるように、不自然なほどにゆっくりと。
「もう一度、家族にならないか」
その声は、私が聞いたことのない低さと、力強さ。
いや、聞いたことはある。
浩一くんの母親と再会した時、この声で彼女の名前を呼んだ。
修平さんが『男』の顔をすると、こんな声で話すのかと驚いた。
けれど、向けられたことのない眼差しに驚きはしたものの、それだけだ。
驚いて、少し残念に思う。
今までが、甘えすぎてたのよね……。
私は静かに目を閉じた。
「私の家族は、この子です」
お腹を抱いて、言う。
「その子の父親になりたい」
ふるふると首を振る。
「この子の父親は、悠久です。悠久だけです」
「幼い子供を抱いて、寄り添い続けるのか?」
その物言いに、違和感を持つ。
いくら修平さんがいつもと違う様子だとしても、こんな冷たい言い方は彼らしくない。
「彼が目覚めなかったら? 一人で子供を育てるのか? いくらお祖母さんの遺した金があると言っても、彼の治療費と養育費、生活費に費やせばあっと言う間に底をつくだろう。俺と結婚するのなら、彼はこのまま最善の治療を受けられるし、子供は両親が揃った状況で育つことが出来る。もしも彼が目覚めたら、その後のことはその時に考えたらいい」
違う、と思った。
らしくない、なんて不確定な心象ではなく、ハッキリと、修平さんの言葉ではない、と確信を持つ。
同時に、わかった。
「考えるまでもありません」と、私はかつての夫を真っ直ぐに見て言った。
「目覚めても目覚めなくても、私の夫になる男性は悠久だけです。この子がパパと呼ぶのも」
「楽」
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