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第六章 対立
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しおりを挟む「部長のセックス。やっぱり上手いの?」
「んぐっ!」
予想外の質問に、ナッツが気道を塞いだ。
「ゴホッ、ゴホッ」
「ちょっと、大丈夫?」
私はグラス半分に残っていたモヒートを飲み干し、息をついた。
「変なこと……聞くから……」
「だって、有名じゃない? 自称経験者って女が、自慢気に話してるの聞いたことあるし」
「そうなの?」
私はバーテンダーにバラライカを注文した。
「疑わしいけどねぇ。部長があんな口もお尻も軽そうな女を相手にするなんて」
「誰だよ、その女」
背後からすっかり聞き慣れた声がして、私と真由は同時に振り向いた。
雄大さん。
「ゆう――部長、どうして――」
「広報課の美人課長サンにお誘いを受けたんでな」
「あら、嬉しい」と言って、真由が頬に手を当て、笑った。
真由はイベント企画部広報課課長。
「真由!」
「名誉のために言っておくが、会社の女と遊ぶなんて面倒なこと、したことないからな」
雄大さんが私の隣に座り、シェリートニックを注文する。
「誰だよ、自称俺のセックスの相手って」
「今度、話を聞いたら言っておきますよ。部長のセックスを知っているのは馨だけだって」
「やめてよ! ホントに刺されそう」
私の反応を楽しんで、雄大さんと真由が笑う。
「で? どうだった?」
「え?」
雄大さんが頬杖をついてニッコリ笑う。
「俺のセックス。上手かった?」
「……――!」
昼間の情事を思い出し、体温が三度は上昇した。
「あははははっ!! なんて顔してるのよ」
真由が私を見て笑う。
「もうっ! やめてってば!!」
恥ずかしすぎる――!
「さて、面白いものも見れたおことだし、私は先に帰るね。部長、ご馳走様です」と言って、真由が立ち上がる。
雄大さんは、ああ、軽く手を挙げた。その手でチーズを口に運ぶ。
「一応、忠告しておきます。どんな事情にせよ、馨を傷つけたら許しませんから」
真由が鋭い目つきで部長を見下ろす。
「広報課長は敵に回したくないから、大事にするよ」
「忘れないでくださいね?」
「ああ。だから、馨の為にも、俺たちは真剣交際で結婚間近、ってことでよろしく」
「はっ?」と、自分でも驚くほど間抜けな声が出た。
真由も驚いて、けれどすぐに営業スマイルを見せた。
「任せてください」
「真由!」
「大丈夫よ、馨。広報課長の腕を信じなさい。じゃ、また明日ね」
真由はヒラヒラと手を振って、店を出て行った。
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