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第七章 恋慕
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しおりを挟む「送っていただいて、ありがとうございました」
「いえ、色々とお話しを伺えて勉強になりました」と、畑中さんは言った。
「こちらこそ」
「東京でまた、お会いしましょう」
私は畑中さんの車を見送り、ホテルの部屋に戻った。
雄大さんは今頃、春日野さんと食事をしている。もしかしたら、食事はやめてホテルでセックスの真っ最中かもしれない。
二人きりになるように仕向けたのは自分なのに、気になって仕方がなかった。
車中、畑中さんと話していても、頭に浮かぶのは雄大さんと春日野さんが抱き合う姿。
元カノかぁ……。
「畑中も交えて食事しませんか?」
社長の話が終わり、ビルを出る前に寄ったトイレで、春日野さんに聞かれた。
「槇田さんとも久し振りにゆっくり話したいし」
「……」
本当は雄大さんと二人で話したいんだろうな、と思った。
「あ、すぐに東京に帰る予定だったかしら?」
「いえ……」
春日野さんは、三十間近の私から見ても憧れる、洗練された大人の女性。自信に満ち溢れていて、仕事も出来る。
雄大さんに相応しいのは、こういう女性だろうな……。
「付き合ってらしたんですか?」
返事はわかっているのに、聞いてしまった。
春日野さんは少し驚いた顔をして、それから微笑んだ。
「隠すことじゃないわね。もう三年以上前だけど、付き合っていたわ」
「嫌いになって別れたわけじゃないんですね」
「ストレートに聞くのね」
「詮索するつもりじゃないんです。ただ、仕事の話でないのなら私は遠慮します。上司の鼻の下が伸びた顔なんて見たくないですし」
今度は声を出して笑った。
「あはははは……。本当にストレートに話すのね」
「春日野さんは素敵な女性ですね」
「え?」
「思ったことをストレートに言ってみました」
「……ありがとう」
女の私でも惚れてしまいそうだわ。
にっこりと笑った春日野さんを見て、そう思った。
「私、今日は生理痛で体調があまり良くないんです。食欲もなくて。なので、畑中さんに駅まで送ってもらってもいいですか?」
「ええ、ありがとう。お大事にしてね」と言って、春日野さんは鎮痛薬をくれた。
お似合いだなぁ……。
私はシャワーを浴びて、ベッドに入った。
本当の恋人じゃないし……。
生理でセックスできないし……。
雄大さんが私以外の女を抱く理由を並べて、仕方がないと自分に言い聞かせる。
お腹空いたな……。
今日は朝から何も食べていなかった。
ゼリーくらいなら食べられそうだと、着替えてホテル横のコンビニに行くことにした。
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