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第八章 婚約
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しおりを挟む「今日は泊まれよ?」
餃子を一つ食べて、雄大さんが言った。
「嫌ですよ」
「なんでだよ」
「生理だから!」
「じゃあ、お前ん家に帰れば良かったな」
「は?」
「食ったら送ってく」
「はあ……」
雄大さんはご飯をお代わりして、餃子を二十個は食べた。
三十個じゃ多いかなと思ったのに……。
次からは大目に作って冷凍しておくかな。
次、を考えている自分に気づき、恥ずかしくなった。
「お前ん家に泊まっていい?」
食器を洗っていると、雄大さんが言った。
「ダメです」
「なんで」
「何度も言わせないで! それに、うちのベッドはここのみたいに大きくないから。昨日も狭いベッドで落ち着かなかったでしょうから、今日はゆっくり寝てください!」
「ヤダ」
雄大さんが隣に立ち、私が洗った食器を拭く。
「結婚、するからな?」
「は?」
「俺、餃子好きなんだよ」
「はぁ」
黙々と食べるところを見れば、それはわかった。
「お前の餃子、美味かった」
「ありがとうございます」
「包み方も焼き方も綺麗だったし」
「ありがとうございます」
「ラーメンは味噌ってのも気が合うし」
「確かに」
「セックスの相性もいいし」
「確か――!? って!」
慌てて、洗っていた茶碗をシンクに落としてしまった。割れてはいない。
「だから、結婚する」
「だから! どうしてそうなるんですか!!」
「お前がいつまでもグダグダ言うからだろ」
「私のせいですか?」
一瞬、雄大さんが苦しそうな悲しそうな、泣きそうな顔をした。ように、見えた。
「とにかく、結婚はするからな」
布巾を放り投げ、ビールを手にリビングに戻る。
なんで……あんな顔――。
「送ってくれるんじゃなかったんですか?」
洗い物を終えて、私は言った。
「そんなに嫌か? 俺との結婚」と言って、グイッと缶の中身を飲み干す。
「何をムキになってるんですか?」
「ムキになんか……」
初めて、雄大さんの背中が小さく見えた。
私は彼の後ろに座り、背中に寄りかかった。
「こんな女のどこがいいんだか……」
「まったくだな」
「私が男なら、私なんかより春日野さんを選びます」
「そうか」
あったかい……。
ずっとこうしていられたら、と思った。
契約……か。
『お前は、もう少し人に頼ったり、楽観的に考えられるようになった方がいいな』
雄大さんの言葉を思い出す。
人に頼る……、か。
「契約とはいえ、浮気は嫌です」
「……しねぇよ」
雄大さんの低い声が、背中から耳に響く。
「どちらかが本気で無理だと思ったら、終わりです」
「……ああ」
「新しい財布……買ってください」
「お揃いで?」
声のトーンが上がる。
「じゃなくていいです」
「元カレとはお揃いにしたくせに……。けど、それはやっぱいいわ」
「え?」
雄大さんがぐるっと身体を捻り、私はひっくり返りそうになる。彼が受け止めてくれた。
「元カレと同じことしても意味ないし」と、いつもの俺様な顔。
「明日、財布買いに行こう」
結局、今夜も雄大さんに抱き締められて眠った。
着替えを多めに持って来て良かった、と思った。
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