共犯者 ~報酬はお前~

深冬 芽以

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第十八章 誤算

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「まさか。馨は話しのわからない女じゃない」

「そう……。信頼しているのね」

 玲にカップを差し出され、受け取った。

「当然だろう」

「けど、ここに来たってことは、ご両親からは反対されたんでしょう?」

 玲は俺の正面に座り、カップに口をつけた。

「雄大のご両親に反対されたまま、那須川さんと結婚できる?」

 そう言って微笑む玲は、かつて俺が抱いた女とは別人のよう。俺の知っている玲は自信に満ちていて、何事にも誰にでも真っ向勝負を挑む、勇ましい女だった。

 こんな、裏で策略を張り巡らせるような女じゃない。



 そんな女じゃなかった……はずだ――。



「お前が俺との結婚を望んでいるなんて、驚いたよ。その為に、あんな男と手を組むのも――」

 俺と玲の写真がメールでバラまかれた日、広川が馨に言った。 

『写真の女は部長の元カノなんでしょう?』

 黛が写真を見て俺と玲の関係を探ったにしても、早すぎる。それに、俺と玲は一緒に出掛けたことも、写真を撮ったこともない。俺と玲の関係は、俺か玲が認めなければ立証できない。

「欲しいものの為ならどんなことでもするわ。私に限ったことじゃないでしょう?」



 認めた……か。



 敵の敵は味方、とはよく言ったものだ。

「欲しいもの、ってのは?」

「え?」

「お前の欲しいものってなんだよ」

 玲はくすっと笑う。

雄大あなた以外に何があるの?」

「理由は?」

「好きだから、愛しているからに決まっているじゃない」

 全く、心に響かなかった。

 馨に言われた『好き』のように、身体が熱くなったりもしない。

「付き合ってる時は、言われたことなかったよな」

「……そうね。あなたから言わせたかったから……」

「なら、何で今頃?」

現在いまだからよ」

「三年以上も経って何を――」

「どうして那須川さんなの?」



 どうして……?



「何年も一緒に働いてきて、私と付き合っている間も彼女とは毎日顔を合わせてたんでしょう? なのに、どうして今頃になって……」



 そんなこと……俺が聞きたいくらいだ。



「立波リゾートって、そんなに魅力?」



 玲は、俺が立波リゾート欲しさに馨と結婚すると思っているのか――?



「立波リゾートは関係ない。馨との結婚に付随するものではあるが、目的ではない」

 わざとまどろっこしい言い方をした。玲がどこまで知っているかわからない。

「それならば、尚更わからないわ。あんなに結婚に否定的だったあなたが、どうして――」

「結婚したいと思える相手に出会ったからだ」
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