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第十九章 動揺
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しおりを挟むすき焼きが食べたいと言ったのは雄大さんで、ご飯の時間までには帰ると言った。
『少し遅くなる』のは、道が混んでいるからだと思った。ご両親との話し合いが少し長引いたのかもしれない。そう、思いたかった。
雄大さんが出て行って七時間が過ぎ、電話をしようかとも思った。けれど、やめた。
なぜだか、やめた方がいい気がした。
それから三十分後。
雄大さんは疲れ切った表情で帰って来た。
出て行った時と同じ服に知らない香りをまとって。
「遅くなってごめん」
そう言って、雄大さんは私を抱き締めた。
ケーキの箱を潰さないように。
彼の身体は冷え切っていた。顔色も悪い。
「雄大さん? どうしてこんなに冷たいの?」
まるで水風呂にでも浸かったよう。
「具合が悪いの?」
雄大さんは首を振る。
「お風呂! すぐ――」
「いい。それより、お前を抱きたい」
「え――?」
嫌な予感がした。
いつものように強引にベッドに押し倒され、いつものようにキスをして、いつものように身体を重ねる。
なのに、心が重ならない。
「何があったの?」
挿入ってきた雄大さんがいつもと違うことに、すぐに気がついた。
たいしてその気もないのに、無理やり繋がろうとしている。
私が気がついたことに、雄大さんも気がついた。
「セックスで忘れられる?」
「セックスで忘れたい」
「ゴム、着けて」
異様な光景だと思う。
私は足を開いて雄大さんを受け入れているのに、真顔で彼を見上げている。
「そんな気持ちの時に出来てほしくない」
「馨……」
「続けるなら、ゴムして」
『子供が出来たら、誰にも文句を言われずに済むかな』
あの言葉は本気だった。
昨夜も、着けなかった。
今も、着けていない。
「嫌だ」
えっ――――?
絶対、やめると思った。
何があったのか、話してくれると思った。
けれど、私の言葉は雄大さんに火をつけてしまった。
それなりに私の膣内に収まっていた雄大さんが、はち切れんばかりの存在感を見せつけ、激しく動き出した。
「ちょ……っと……」
「そんな気持ち、って何?」
「え……?」
「俺の気持ちがわかんの……?」
脚を担がれて、繋がっているところが大きく開かれる。この体勢は恥ずかしくて好きじゃない。気持ちいいけれど。
「んっ――。あ……、ああ……」
「子供が出来たらっ……すぐに……でも結婚できるのに……って――」
雄大さんがギュッと目を瞑り、口をきつく結んだ。けれど、すぐに深く息を吐く。
「悪い……。もう……イク――!」
深く押し付けられて、雄大さんのモノがびくびく動いているのがわかる。お腹の奥が熱い。
「くそっ――」
雄大さんが耳元で呟く。
自分本位なセックスに対してか、セックスでは忘れたいことを忘れられなかったからかは、わからない。
「気が済んだ?」
わざと、冷たい言い方をした。
後ろめたいからか、雄大さんは顔を上げようとはしない。代わりに肩にキスをくれた。
「ごめん」
「シャワー入ってきて? すき焼き用意しておくから」
「ん……」
ぐぅ、とお腹が鳴った。二人同時に。
私たちは顔を見合わせて、笑った。
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