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16.脅迫
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ムカつく。
わざと、ムカつかされてる。
それがわかるから、私は精いっぱいの虚勢で微笑んだ。
「そうします」
私は振り返り、心配そうに私を見る奈都に小さく首を振った。
成悟を呼ばれたくなかった。
瑛子さんは店を出て、すぐ隣の休業中の札がかかった焼肉屋の前で足を止め、振り返った。
「成悟から、聞いているんでしょう?」
何のことか、聞くまでもない。
「はい」
「なら、話は早いわ。引き受けるように説得してちょうだい」
「お断りします」
私の即答に、瑛子さんの口端から笑みが消えた。
「潰すわよ? 成悟も、あなたも」
彼女の背後の街灯から、ゾッとするような無表情が照らされる。
「彼を裏切っておきながら、どうして彼にこだわるんですか!?」
「愛しているからよ」
「ご主人のことも愛しているんでしょう? だから、子供が欲しいと――」
「――そうよ。主人のことはこの世の何よりも愛している。私が成悟にこだわるのは、成悟が私を愛しているからよ」
思わず『はぁ?』と言いそうになった。
「昔の話でしょう。あなたが裏切ったせいで――」
「――タイミングが悪かっただけよ。主人の事故がなければ、成悟はきっと、もっと私を愛してくれたわ。私が結婚していることなんてどうでもいいと思えるほどに」
「何を言っているんですか? 成悟は、知らなかったとはいえ不倫してしまったことを後悔していたし、その事実に苦しんでました。あなたが! 苦しめたんですよ? なのに、どうして――」
「――苦しむほど私を愛しているってことでしょう?」
話が通じない。
成悟が愛しているのは自分だと、信じているというより疑ってもいない。
「成悟が私を好きになったのは小学生の頃よ。それから、ずっと、何度別れても、再会する度にどんどん私を好きになるの。初めてのキスも、セックスも私。彼が私を忘れるなんて有り得ないし、許さない!」
狂気染みた、悲鳴のような声に、鼓膜だけでなく皮膚も切り裂かれそう。
「こんなこと……、ご家族が知ったら――」
「――脅しのつもり?」
ふふんっと鼻で笑うと、瑛子さんが首を傾げた。
「言えば? 私は家族にどう思われようとどうでもいいわ。でも、成悟の家族はどう思うかしら。自慢の息子が友達の姉と不倫関係にあったと知ったら? ああ、あなたのご家族もよね? 娘の恋人が不倫するような男だと知ったら、さぞ悲しまれるでしょうね。結婚なんて許すはずがないわ」
怖い、と思った。
成悟が愛した瑛子さんがどんな女性だったにしても、今となっては彼に女性を見る目がなかったとしか思えない。
「安心して? 成悟の子供を妊娠したら、二度とあなたたちとは関わらないわ。私は主人のそばで子供を育てるの」
「成悟はそんなこと――」
「――断れないわよ、成悟は。だって――」
瑛子さんが真っ赤なネイルの尖った爪の先を私の右目に向けた。
今、彼女がバランスを崩して前のめりになったら、確実に彼女の爪が私の眼球に突き刺さる気がして、思わず仰け反る。
「――あなたという弱みがいるもの」
「……よわ……み?」
「バカな女」
瑛子さんが手を下ろし、細い手首の煌びやかな時計に視線を落とした。
「ちょうど三週間後、彼のマンションに行くわ。なんの準備もいらないわ、って伝えてくれる?」
私の返事など、どうでもいいらしい。
彼女はくるりと身体を反転させると、つかつかと歩き出した。
わざと、ムカつかされてる。
それがわかるから、私は精いっぱいの虚勢で微笑んだ。
「そうします」
私は振り返り、心配そうに私を見る奈都に小さく首を振った。
成悟を呼ばれたくなかった。
瑛子さんは店を出て、すぐ隣の休業中の札がかかった焼肉屋の前で足を止め、振り返った。
「成悟から、聞いているんでしょう?」
何のことか、聞くまでもない。
「はい」
「なら、話は早いわ。引き受けるように説得してちょうだい」
「お断りします」
私の即答に、瑛子さんの口端から笑みが消えた。
「潰すわよ? 成悟も、あなたも」
彼女の背後の街灯から、ゾッとするような無表情が照らされる。
「彼を裏切っておきながら、どうして彼にこだわるんですか!?」
「愛しているからよ」
「ご主人のことも愛しているんでしょう? だから、子供が欲しいと――」
「――そうよ。主人のことはこの世の何よりも愛している。私が成悟にこだわるのは、成悟が私を愛しているからよ」
思わず『はぁ?』と言いそうになった。
「昔の話でしょう。あなたが裏切ったせいで――」
「――タイミングが悪かっただけよ。主人の事故がなければ、成悟はきっと、もっと私を愛してくれたわ。私が結婚していることなんてどうでもいいと思えるほどに」
「何を言っているんですか? 成悟は、知らなかったとはいえ不倫してしまったことを後悔していたし、その事実に苦しんでました。あなたが! 苦しめたんですよ? なのに、どうして――」
「――苦しむほど私を愛しているってことでしょう?」
話が通じない。
成悟が愛しているのは自分だと、信じているというより疑ってもいない。
「成悟が私を好きになったのは小学生の頃よ。それから、ずっと、何度別れても、再会する度にどんどん私を好きになるの。初めてのキスも、セックスも私。彼が私を忘れるなんて有り得ないし、許さない!」
狂気染みた、悲鳴のような声に、鼓膜だけでなく皮膚も切り裂かれそう。
「こんなこと……、ご家族が知ったら――」
「――脅しのつもり?」
ふふんっと鼻で笑うと、瑛子さんが首を傾げた。
「言えば? 私は家族にどう思われようとどうでもいいわ。でも、成悟の家族はどう思うかしら。自慢の息子が友達の姉と不倫関係にあったと知ったら? ああ、あなたのご家族もよね? 娘の恋人が不倫するような男だと知ったら、さぞ悲しまれるでしょうね。結婚なんて許すはずがないわ」
怖い、と思った。
成悟が愛した瑛子さんがどんな女性だったにしても、今となっては彼に女性を見る目がなかったとしか思えない。
「安心して? 成悟の子供を妊娠したら、二度とあなたたちとは関わらないわ。私は主人のそばで子供を育てるの」
「成悟はそんなこと――」
「――断れないわよ、成悟は。だって――」
瑛子さんが真っ赤なネイルの尖った爪の先を私の右目に向けた。
今、彼女がバランスを崩して前のめりになったら、確実に彼女の爪が私の眼球に突き刺さる気がして、思わず仰け反る。
「――あなたという弱みがいるもの」
「……よわ……み?」
「バカな女」
瑛子さんが手を下ろし、細い手首の煌びやかな時計に視線を落とした。
「ちょうど三週間後、彼のマンションに行くわ。なんの準備もいらないわ、って伝えてくれる?」
私の返事など、どうでもいいらしい。
彼女はくるりと身体を反転させると、つかつかと歩き出した。
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